第13話 勇者の捜索

 時は少し戻り、晃司が召喚された日の夕方になる。

 第3王女のアモネスは日が落ちる直前になり頃鉱山に着いた。


 鉱山は大騒ぎだ。

 何せこのような所に王族の、それも女性が来たからだ。


 所長が慌てて駆けつける。丁度今晩の女を誰にするかを決め、貪り始めた時に緊急事態だと部下が部屋を訪れた。

 お楽しみを遮られたのでそいつの襟首を掴んだのだが、王女様が来た!王女様が!と呻いており、ドアの外をそっと覗くと姫騎士の1人を連れて来ているのが見えたので、慌てて服を着て駆け付けた。

 今から風呂に入る所で服を脱いでいる最中だったと、苦しい言い訳を考えていたが、杞憂に終わった。


 やましい事が多過ぎるので、本当に美人で有名なあの聖女と言われる第3王女がいると分かるも、その顔を拝めた幸運より、この時間に兵士を引き連れて来た事の意味を考えると背筋に冷や汗が出る。


 巧妙に私腹を肥やし、一部の鉱山奴隷の女でハーレムを構築している事がついにバレたのか?と。


「所長、今日王都から連れて来られた奴隷全員を至急連れてきて下さい」


「奴隷に何か有りましたでしょうか?」


「王女様が連れて来いとおっしゃられているのだ。お前は黙って従うだけでよいのだ」


「ゲイル、およしなさい。所長、貴方も王都にて勇者召喚をする話は聞いておりますわね?その時に事故が発生し、勇者様がどこかに放り出される形で召喚された可能性があります。更に調べると、不審な犯罪者として捕えた方と会話が成立しなかったそうです。その方が勇者様の可能性が高いと思っております。そしてその方を捕えた者からは、鉱山送りにしたと聞かされ、今日の昼前にはこちらに向かって出発しております。所長に対してどうこうはありませんから身構える必要は有りませんわ」


 所長はホッとした顔を隠す事もなく部下に、今日連れて来られた者達を連れてこいと命じた。


「今部下に命じましたので暫しのお待ちを。今は奴隷にする処置の最中かと思います」


 そして10分程で奴隷達が来た。


 一部女もいるが、基本的に30歳より上の者しかいなかった。若かったり黒目黒髪の者は1人もいない。


「ネリスさん、どうですか?年齢層と見た目が異なるようですが」 


「は、はい。殿下。この中にはおりません。ただ、人数は今回は58名と聞いておりますが、どう考えても少ないと思います」


「私は馬車2台、いま連れて来た38名が今日移送されて来た者達だと護送隊長より聞いておりますが、違うのですか?」


 所長は心の底から安堵した。

 こちらは間違いなく38人というのを数え、その上で受取書にサインをしている。

 どうやらやらかしたのは護送隊のようで、こちらからボロを出さない限り不正を疑われる事はないからだ。


 皆の目が護送隊の隊長に集まる。


「はっ。王都から馬車で1時間半位の所でワーウルフの群れに襲撃されました。馬車の1台と、その中にいた20名が死亡または行方不明となっております。1人は崖から落ちたと聞いておりますし、数名は食われたのと、食ったワーウルフの半数は逃げ果せております」


「分かりました。隊長、今からその崖に案内してください。捜索隊を出します」


「お言葉ですが、既に死んでいると思われますが」


「生きておいでです。その時間の少し後にもう1度召喚術を行いました。ですが失敗具合から生きていらっしゃる事だけは分かっております。護送隊は全員捜索に加わるのです!」


「お言葉ですが、今この時間は流石に無理です。夜目が効きませぬ。せめて明日の朝からに致しませぬか?」


 王女は周りから魔物が多く出る時間なので危険だと諭された。勇者様が命の危機に晒されていると食い下がるも、逆に危険に晒すからとの意見に折れ、夜明けと共に捜索をする事になった。


 そして夜明けと共に捜索を開始し、一部の兵士を伝令として町に向かわせるようにとテキパキと指示を出す。念の為ネリスが書いた人相書きの者について町に手配書を出す事にした、いや、しちゃったのだ。


そして捜索隊を襲撃が有った場所に送るように指示をした。


 皆指示待ちなので、つい苛立ちと焦りから舌打ちをし、こいつら揃いも揃って使えないわね!xyz・・・と、その容姿からは考えられないきつい言葉で毒付いていたが、小さく唸っていた為、誰の耳にも届かなかった。


 崖の下の河原にはワーウルフと思われる魔石が見つかったのと、服の切れ端が見つかったのでそれをネリスが確認したが、確かに捕えた時に着替えさせた時の服の生地と同じだと告げた。

 ここに落ちたのが勇者かどうかはともかくとして、ネリスが捕えた者だと確定し、そこを中心に捜索を丸1日行うも手掛かりすら見つからなかった。

 なので、近くにはもういないとなり捜索を打ち切った。


 そして失意の中、王都に帰還の後に念の為もう1度召喚を行うも、生きているという事が分かり関係者を大いに驚かせた。


 既に勇者と思われる者の特徴を書き記した人相書を全ての町に向けて出している。

 特に襲撃のあった場所から近い町や村には優先的にだ。概ね徒歩で3時間の範囲だ。


 アモネスはせめて王都の冒険者ギルド位は自ら足を運び、ギルドマスターや受け付け嬢に直接事情を話し、協力を取り付けたいと思い実行に移した。

 まだ夕方にはなっていなかったので僅かな護衛のみを伴い冒険者ギルドに向かった。


 アモネスが冒険者ギルドに着くと周りが騒ぎ始めた。

 場違いな上品な服をというか、ドレスを着ている美人が来たからだ。


 丁度目的の受け付け嬢のいる所に向かうと、男女2人組の冒険者の対応をしていた。


 その冒険者が話をしている最中に受け付け嬢が気が付き声を掛けた。


「アモネスさん、お久し振りです。丁度彼女達の手続きが終わりましたが、どうしたのですか?」


 アモネスはその冒険者の男を見て、髪の色以外は人相書きと似ているなと思った。

 その男は会釈してアモネスに場所を譲り、受付から去ろうとしていたので、つい腕を掴んだ。


 その男は戸惑った感じだったが、アモネスの身なりと護衛付きの為、ゆっくりと振り向いた。


「私に何か御用でしょうか?」


 その男、つまり晃司は仕方がないので王女に声を掛けた。   


「失礼しました。私はこの国の第三王女のアモネスと申します。つかぬ事をお伺いしますが、貴方は髪の毛の色を最近染めていたりしますか?特に最近黒色に染めていたりはしていませんか?」


 晃司はどきりとした。その者が美しいのとは別の事で、自分が手配書の者かどうか疑われていると感じたからだ。   


「ええ、私は生まれてこの方、1度として、髪の毛を染めたり、色を抜いたりした事はないですね」


「もう私が真偽を確かめていますよ!」 


「そうでしたか。呼び止めてしまい申し訳ありませんでした。この人相書きの方に似ておりましたので。黒目黒髪の方なのですが、もし見掛けましたらお城へお知らせくださいませ。金一封を差しあげますので」


「分かりました。それでは失礼します」


「はい。こちらの手違いで賓客として丁寧に…」


 晃司はごめんと呟いてからわざとらしくラミィの手を握り、仲の良いカップルを装ってギルドを出た。


「仲の良いカップルですわね。かなり高圧的に話す方だと聞いていますし、人となりも違いますわね。確かに彼は嘘をついてはいませんわね。どこにいるのかしら?」


「ところでその人は何をやったの?貴女が私の所に来る位なのだから余程の事なんでしょうね?ただ、手配書になっているから、私ならこれが出ていると分かったら、濡れ衣で処刑されるのではないか?と警戒して隠れるわよ」


 2人して晃司達が仲良くしているのを見て羨ましい・・・と呟きながらギルドマスターの執務室に向かい、本題に入るのであった。

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