第7話 冒険者登録

 受付嬢の前に立つと、こちらから声を掛けるよりも先に声を掛けられた。


「ラミィちゃんお帰りなさい!」


 16歳前後の若いというか幼さの残る受付嬢だ。

 緑の肩迄の髪で、綺麗系の顔立ちだ。


「エリーさん、ただいま」


「今日は早いわね。あら?見ない顔ね?ひょっとして遂にパーティーを組んだの?」


「はじめまして。えっと、ラミィとパーティーを組みたいんだけど、その前に冒険者登録が必要なんだよね?それとこれらは買い取って貰えるんだっけ?」


「あら?これはワーウルフの角ね。魔石は売らないのかしら?」


「魔石ってこの石ころの事?だったら持っていないぞ。俺はそのワーウルフとやらに追い掛けられていて、飛び掛られた時に崖を一緒に転がり落ちたんだ。偶々角を掴んでいて転がっている時に折れたようなんだ。で、気が付いたら川を流されていて、この角を持っていたんだ」


「それでその格好なのね。ワーウルフの角は余程の業物じゃないと先ず折れないから、転がっている時に頭でも打って死んだのでしょう。それも後で査定をしましょう。えっと、お城から面通しをと言われているけど、貴方は少し違うわね。顔は似てなくもないけど。因みに嘘をついたら分かりますからね。えっと今日からは男性に対して1度は確認をする事があるのですが、髪は染められたりと、本来の色から変えていますか?」


「いや、生まれてこの方髪の毛を染めたり等、色を変えた事は1度も無いけどそれがどうかしたのですか?」


「これがお城から回ってきたのですが、城に連れていけば金貨10枚の謝礼なんだそうよ。顔は晃司さんに似ていますが、黒目黒髪だから確認したんです。晃司さんのは見事な白ですもんね」


 晃司はえっ?と思う反面、手配書が回っているのか!それと髪が白ってなんだよ!と思う。


「そいつは何をやったんですか?」


「それが書いていないんですよ。でも犯罪者なら賞金首として手配なんで、犯罪者じゃないとは思うのですけど、よく分からないですねー。晃司さんも、もし見掛けたら教えて下さいねー。お金が貰えますから!じゃあ検査と登録をしましょうか。登録をしないと買い取りも出来ないですからねー」


 紙に必要事項を書こうとしたが、残念ながら晃司には書けなかった。

 ラミィに代筆をお願いしたが大して驚かれなかった事から、どうやら識字率が低いようだと感じた。

 必要事項と言っても名前と年齢位だ。他は受付嬢が検査結果を記載するらしい。


 そして能力の測定になった。


 魔力量を測る装置に手をかざすも反応がなく、魔法の属性を確認するも反応がない。

 実は壊れており、晃司の力に反応しなかったのだ。


「あー、魔法適性が無いのと、魔力無しですね。後は良い加護やスキルを得られる事を祈りましょう!」


 晃司はエリーに残念な子を見るような目で見られた。 


「では次に冒険者登録をします。登録をすると神より加護を授かります。また、稀にスキルを得られます。一説によると神の眷属になり、その神の加護を得られると言われています。同じ加護持ちだと、ほぼ同じスキルを得られるからという事になるのだそうです。ただ、加護は一つだけですが、努力次第で後から新たなスキルを覚える事が可能ですから」


 そして言われるがままに契約の鏡に手を触れたが、その鏡とは身長程の高さがある姿見だ。

 ただ、触れる前に己の髪を見たが、真っ白になっておりショックを受けた。

 すると先程まで鏡には己の姿が映っていたが、その像が歪み、やがて一人の美しい女性が映った。

 だが、だらしない格好をし、ビールを飲みながらがはははとテレビを見ていた。

 ラミィもエリーもかなり驚いていた。


 普通は鏡には加護の紋様が浮かぶとの事で、このような事は聞いた事がないそうだ。


「チェンジで」


「何がチェンジよ!加護が欲しいならちゃんと予め申請しなさいよ。今は勤務時間外なのよ!まったくもう!時間外に仕事をさせないでよね」


「いや、いいです。チェンジでお願いします」


「罰当たりな奴ね!まったくチェンジなんて失礼ね!私の事を何だと思っているのよ?」


「昼間っからテレビを見ながら酒を飲み、ビール腹になった引き籠もりニートだろ!」


「女神様に向かって何よ!こっちはもう寝る前なのよ!1日頑張った自分にご褒美の1杯なのよ!親の臑齧りに言われたくないわよ。ってなんであんたテレビを知っているのよ?」


「見ているドラマからも腐女子と判断するぞ。薔薇の堕天使だろ?それって大問題になっている男同士が乳繰り合うドラマで、しかも月9でやったからPTAから総スカンを食らって深夜枠に移ったやつで、妙に女に人気だったよな。確かあの有名なアイドル達が体を張ったキモドラマだよな」


「何よ!あんたに聖くんの良さが分からないの?ってあんたモーグルの晃司くんじゃないの?そんなところで何をしているのよ?」


「あのう、晃司さん?さっきから鏡の中の方とお話をされているようですが、何を言っているのかさっぱり分からないのですが?」


「ああ、自称女神様らしいぞ。残念さんだから少し話に付き合ってやっているけど、分からないのかい?」


 2人は頷く。


「後で話すね」


「あんた馬鹿じゃないの?日本語が分かる訳ないじゃないの。それよりなんであんたは異世界にいるのよ?って待って。あっ?あんた最終予選の最中に消え失せたのね!マジ受けるんですけどー、なんで私の管理する世界にいるのよ!地球じゃ大騒ぎよ。テレビ中継されていたようね!Wチューブにアップされまくって凄い事になっているわね!プププ。でも変ね?私は異世界召喚の許可なんて出していないわよ?」


「やっぱり異世界か。女風呂に落ちたんだよ。それもスキー板を履いたままな」


「ちょっと待って!あっ!何これ!今朝エラーが出ていたなんて!あんた、何してくれるのよ!」


「馬鹿か?お前が管理する世界なんだろ?元の世界に戻せよ!女神なんだろ?出来るだろ?お前の失態だろ?」   


「ああ!どうしよう?同意なしの人が異世界召喚されたなんて、もしも主神様に知られちゃったら怒られるじゃないの!あんた、同意した事にしなさいよ!」


「やだな。帰らせてくれよ!」


「無理よ。本来地球からじゃ無理なの。なんであんたがこの世界に召喚されたのか謎だし、本来はこの世界は地球以外の星と繋がっているの。だから帰る手段は残念だけど無いのよ」


 晃司はうなだれ、その場に崩れ落ちた。


「わ、分かったわよ。あんたのモーグル結構好きだったのよ。帰れないけど、代わりにとっておきの加護をあげるから、この世界をエンジョイして!」


「チートか?」


「勿論普通はあげないチートよ」


「因みにこの世界の神はお前だけか?複数の神がいて、冒険者になる時にその神の加護を得られると聞いたぞ」


「ええそうよ。冒険者になると私の加護を与えるのだけどね。でも全部私のよ」


「どうやって与える加護を決めているんだ?」


 これよ!と言わんばかりに100面体のサイコロを出してきた。


「0が大当たりで、100が2つ目ゲットよ。どちらも確率が低くて、10000分の1かな。2つ目の時に100が出たらウルトラ加護をあげるの。だけど、晃司くんにはそれをあげちゃおうかな。欲しかったら、超絶美しいヘリオシス様!イヤシイ私めにどうか御慈悲をって土下座して懇願したらお願いを聞いちゃおうかなー」


「やっぱチェンジで!」


「わ、分かったわよ。仕方がないんだから。ダブル100にしといてあげるわよ」


 美しいが酔っ払っており、まともに頭の回っていなかった中身残念女神はチェンジされるのを本気で恐れ、晃司に敗北したのであった。

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