カードを呼び出すことしかできない無能は邪魔だとギルドを追放されたけど、覚醒したら無限の可能性しか感じない万能スキルだったので、辺境の生まれ故郷を発展させながら最強の召喚術士を目指そうと思う

蒼唯まる

ギルドからの追放

無能のカード使い

 その日は遠征任務を終えて、数日ぶりに拠点のある王都に帰ってきてすぐのことだった。


「ジェイク・デュエイルム。本日を以て、お前をギルド『カラスの宿木』より除名処分とする。」


 拠点の建物に到着するなりいきなり首領室に呼び出されると、中にいた頬に傷のある横暴そうな筋肉質の大男――首領のグウィンから突如として告げられた思いもしなかった宣告に俺は、訳が分からず頭の中が真っ白になった。


「……は、除名って一体どういうことだよ!?」

「言っての通りだが? クビってことだよ、クビ。あとこれはギルドの総意による決定事項だから、お前に拒否権はねえぞ」

「そんなんで納得できるか! なんでなのか理由をちゃんと説明しろよ!」

「……ったく、物分かりの悪い奴だな。いつまで経ってもEランクのまま。おまけに使えねえ召喚しか出来ないテメエはもうウチのギルドにはいらねえんだよ」


 獣のように鋭い眼光でギロリと睨みつけ、苛立ちを微塵も隠そうとせずにグウィンはチッと舌を鳴らすと、机に備えてある椅子にどっかりと腰を下ろした。


「そんな……確かにずっとEランクから昇格できていないし、俺の召喚は大して役に立つようなものじゃないけど、でも代わりに前に出て戦ったり、囮を買って出たりして危険な役回りを引き受けてきたつもりだ。それじゃ駄目だったってことなのか?」


 俺の問いかけに対してグウィンの答えは「ああ、全くもってその通り。というか寧ろ迷惑だ」と一蹴だった。


「これまで階級も低く、ロクに魔術も使えないお前を今までギルドに残してやっていたのは、お前にスキルを会得する素質があったからだ。だというのにその折角のスキルがなんの力も無いちんけなカードを呼び出すことしかできねえ無能となっちゃ、もう完全にこのギルドに置いておく理由が無い。俺が言っている意味が分かるか? つまり、ジェイク……お前にいられること自体がギルドにとって恥なんだよ」


 そんなことはない、と大声で反論したかったが、悔しいことに首領の言うことにも一理はあった。


 この世界には時折、スキルという異能の力に目覚める人間がいる。

 特定の方法による戦闘能力が上昇したり、従来の術式とは異なる独自の魔術が行使できるようになったり、特殊な属性の魔力を扱えるようになったりと発揮する力の内容は様々だ。


 スキルがあるからと言って、それだけで強いという判断を下せることにはならないが、スキルがあるかないかでは優位性に差が生まれるのも確かである。


 その中で召喚術と分類されるスキルは、特別な魔物や精霊を呼び出し、使役することのできる力を有し、こいつがあるというだけで周囲から羨望を束ねるくらいには希少性が高く、優れた能力だった。

 そう――優れているはずだった。


 しかしながら、物事には例外というものが存在する。


 自分で言うのもあれだが、俺もスキルを会得しており、一応だけど分類としては召喚術に区分されている。

 ただし、俺が呼び出せたものは、魔力を帯びているだけで何の効力も持たないカードだけだったのだ。


 最初は魔力があるからカードを媒体に何かしらの力が備わっているのではないかと思いもしたが、スキルが顕現してから数ヶ月が経った今でもカードを呼び出す以外の能力に変化は見られない。


 召喚術という稀有な能力だというのに実態はどこにも使い途のない無能スキルだっただけに、スキルの詳細を知った周囲から大きく落胆されたのは今でもよく覚えている。


 スキルが使えないことも俺が弱いってことも、指摘されなくても俺自身がよく分かっている。

 でもだからって、追い出すまでしなくたっていいだろ……!


 今すぐにも叫びたい衝動と胸の内から沸々と込み上げてくる無念さと怒りを俺は、強く拳を握り締めてどうにか押し殺す。

 それから首に提げてある二枚の金属製プレートで作られたネックレスのうち片方を取り外し、グウィンの前に差し出した。


 このプレートはどのギルドに所属しているか示す為の識別票と扱われており、手元に残したもう一つのプレートは冒険者個人の身分を識別する為のものとなっている。


 所属ギルドを識別するプレートはギルドタグと呼ばれ、そのギルドごとにそれぞれ管理している。

 対して冒険者個人の身分を示すプレートはドッグタグと呼ばれており、こちらは冒険者組合から支給され、情報は冒険者組合本部で一括管理されているらしい。


「これで満足か?」


 心残りはあるが、もうこれ以上俺が何を言ったところで決定が覆ることはない。

 だったら潔く腹を決めて出て行くしか俺に選択肢は残されていなかった。


「ふん、ようやく理解できたようだな。じゃあ、さっさと消え失せろ。もう二度と俺らの前に現れるんじゃねえぞ。もしまたその面を見せた時は分かっているよな?」


 ニタリを目を細めるグウィンを背に、俺は無言で首領室を後にする。

 部屋を出ると、二振りの剣を携えた金髪の青年が扉のすぐ横で待ち構えていた。


「……ジーンか。何の用だ?」

「何の用って最後に仲間の顔を拝みに来ただけだよ。それにしても残念だったなあ、ジェイク。俺としては残って欲しかったんだけどさ、ギルドの総意じゃ仕方ないよな」


 よくもぬけぬけとそんな台詞が吐けるな。


 名残惜しむように言葉にするジーンだが、表情には明らかな嘲笑が浮かんでいる。

 恐らくこいつも俺をギルドから追い出すことに賛同していたのだろう。


 嫌味を言われるのはこれが初めてではないからもう慣れてはいるが、やはり苛つくものは苛つく。

 だけど少しでも反抗の意思を見せようものなら、痛い目に遭うのは目に見えている。


 性格こそ難があるジーンだが、こいつの冒険者としてのランクは七つある階級のうちA。

 これは上から二番目の序列にあたるので、喧嘩になったとしても俺に待っているのはフルボッコにされる未来だけだ。


 実際、過去に一度完膚なきまで叩き潰されたことがあった。

 あの時は仲間の仲裁が入ったおかげで、どうにか大した怪我にならずに済んだが、もし次同じことが起きれば無事でいられる保証はない。


 変に事を荒立てないように俺は「そうか」とだけ返し、ジーンの前を通り過ぎようとした時、ジーンがわざとらしく、あ、と口を開いた。


「エレシアの事なら心配しなくてもいいぞ。俺がちゃーんと守ってやるから、ジェイクは安心して次の新天地を探してくれたまえ」


 俺の神経を逆撫でするようにニヤけて笑うジーンに思わず殴りかかりたくなったが、怒りを悟られないように奥歯をきつく噛んでどうにか平常心を保ち、今度こそジーンの前を通り過ぎた。


「……チッ、なんとか言えよ無能」


 背後でジーンがつまらなそうにそう吐き捨てるのが聞こえたが、俺は振り返る事なく建物の外に向かう。


 ――すまない、おやっさん。

 あんたとの約束、守れそうにない。


 こうして、最低な形で俺は十数年もの間過ごしたギルドを追い出されたのだった。

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