第2話 出会い

 待ち合わせ場所はどこにでもあるような小さな喫茶店。平日の昼前なのでお客さんはほとんどいない。

 喫茶店の前の通りにもほとんど人は通っていなかった。通りの前にはファッションホテルがある。

 どんな人が来るんだろう。

 僕はソワソワしながら待った。

 待ち合わせ時間になると、大きな帽子をかぶった女の人が一人入ってきた。

 その女の人は店の中を見回すと、ゆっくりと僕の方に近づいてくる。大きなパープルのサングラスをかけていた。

 細身でモデルのような体型。ファッションに詳しくない僕でも一目でブランド品だと分かるような夏らしい水色のワンピース。落ち着いた足取り。

 この小さな喫茶店にはあまりにも場違いな雰囲気を女の人は身に纏っている。

 そばに立つと、女の人は僕の名前を言った。

「そうです」

 僕が応えると、女の人は前に座ってかぶっていた帽子を脱いだ。

 少しウェーブのかかった栗色の髪が肩にかかる。

 正面から見ると、女の人は透き通るような白い肌をしていた。鼻筋がスッととおっていて、少しぷっくりした唇にはピンクのルージュがひかれている。サングラスから透ける瞳は大きい。

 年齢がよく分からない。女子大生と言われても驚かないし、人妻と言われても驚かないだろう。見た感じでは20代に見える。

 店主がメニューを持ってきながら、女の人をチラチラ見る。

「ミルクティー」

 見た目どおりのきれいな声。

 僕は落ち着きなく目の前のコーヒーを飲んだ。

 店主がミルクティーを持ってきて、僕たちのテーブルから離れても女の人は何も話さない。

 僕は初対面の女の人に何を話せばいいか分からなかった。

 長い沈黙が続く。

「あのー」

 沈黙に耐えかねてこれからの予定を聞こうと思って口を開きかけた。

「ちゃんと決めておかないといけないわね。5万でいいかしら」

 女の人が先に喋り始めた。

 僕は何を言われているか分からず一瞬戸惑った。しばらく考えてお金のことだと気づいた。

「いえ、そんなには……1万でいいです」

 お茶と食事を一緒にするぐらいで、いくらなんでも5万はもらいすぎだ。

「遠慮深いのね。まあいいわ。時間がもったいないわ。行きましょう」

 女の人は伝票を掴むと、さっさと立ち上がる。

 僕も慌てて立ち上がった。


 女の人はお金を払うと、店を出て躊躇う様子も見せず、真向かいのホテルに歩いていく。

 僕は驚いて動くことができなかった。

 女の人は僕がついてきてないことに気づいたようで、振り返って僕の方を見た。

 僕は慌てて女の人について行った。

 女の人はフロントで受け付けをすますと、キーを受け取りエレベーターに乗り、当該階に着くと、部屋番号を確かめて部屋に入る。

 僕は後ろについて歩くだけだった。すごく慣れているようだ。

 部屋の中は僕の安アパートの部屋よりも遥かに広い。ベッドも大きいし、部屋全体が淡いピンクの色合いで想像してたよりも落ち着いた雰囲気だ。

 僕はファッションホテルに初めて入った。物珍しさも手伝ってキョロキョロ部屋の中を見渡した。

「何してるの。先にシャワーを浴びてきて」

 いきなりこんな状況になるとは思っていなかった僕はパニックになってどうしたらいいのか分からず、躊躇っていた。

「大丈夫よ。逃げたりしないわ。早く行って」

 促されるままバスルームに入った。僕は今まで女性と付き合ったこともないし、Hもしたことがない。

 何をどうすればいいか分からない。このまましてしまっていいのだろうか。

 僕は服を脱ぐと、ゆっくりとシャワーを浴びた。

 シャワーを浴びると、バスローブのような物が目に入った。

 着替えは持っていないので、これを着るしかないだろう。脱いだ服を持ってバスルームを出る。

 入れ替わるように女の人がバスルームに入っていた。

 僕はお茶を飲んでご飯を食べるだけだと思っていなかった。

 まさかこんなことになるなんて。

 僕はベッドの上に座って、途方に暮れた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る