◇第一章◇
2 隻腕の少年
気付いたらそこは森の中だった。
身体中に鈍い痛みが広がっており、お腹を軋むような飢餓感が襲っていた。
長い間走り続け、身体は限界を迎えていていうことを聞かなかった。
ここはどこだろう…?
僕は何で倒れているんだ…?
飲まず食わずで三日間走り続けたのだ。
身体が限界を迎えるのは当然のことだろう。
マレは立ち上がろうと身体に力を入れる、すると左腕に激しい痛みが襲った。
「あ"ぁ"…」
マレは瞬時に左腕を抑えようとするが左腕があるはずの位置には何も無かった。
「何で腕がないんだ…!?」
マレの呼吸は荒くなり身体の疲労感により誤魔化されていた更なる腕の痛みがマレを襲った。
「うぁ"ぁ"ぁ"!!」
思い出さないと。
何で僕の腕はないんだ?
思い出そうと集中するほど痛みを感じてしまう。
血は乾いて止まっているが傷口は開いていた。
痛いよ…。
お母さん…お父さん…。
どこにいるの?
マレは肩を掴み痛みを紛らわせる。
そして再び歩き始めた。
――
痛みに悶えながら歩き続けるがどれだけ歩いても森を抜け出すことは出来なかった。
僕はこのまま死ぬのかな…。
お腹は空き、喉は乾き、疲労は限界に達していた。
これ以上は歩くことができない、そう悟ったマレに近づく一つの影があった。
茂みからマレを覗く一つの影にマレは気付いていない。
そしてその影は茂みから飛び出し、マレの背後に回り込み、背中を鋭い爪で抉り取った。
「ぐっ…!」
マレには何が起きているかも分からなかった。
疲れと痛みで意識が朦朧とする中背後からいきなり切りつけられたのだ。
倒れ込みながら視線だけを向けるとそこには見たこともないような大きさのオオカミがいた。
毛色は黒く、毛質は針のように硬そうで何より尻尾が三つに分かれていた。
マレは直感した、確実に死ぬと。
こんな森の中で助けが来るわけがなく、父も母もいない。
しかしマレは"諦める"という言葉を知らなかった。
「誰か助けてー!!」
最後の力を振り絞り立ち上がり、走り出し、助けを呼ぶために声を上げた。
助けが来るわけがない、そんなことマレにも分かっていた。
しかし何故か諦められなかったのだ。
頭の中で誰かが諦めるなと言われている気がした。
ここで諦めればもう助かる可能性は皆無だろう。
マレは叫んだ。
オオカミはマレを追いかける。
徐々に距離が縮んでいきマレのすぐ後ろまで迫っていた。
そしてオオカミはマレ目掛けて飛び跳ねた。
マレは走り続けるがオオカミはもう真後ろ。
一触即発、そして鋭い爪がマレの背中へ当たる直前、刹那、突風が起こった。
そして――
「少年、無事か?」
その言葉が発せられると同時にオオカミは細切れになった。
マレはオオカミが死んだと認識するとその場に倒れ込んでしまった。
――
気が付くと私は走り出していた。
どこからか助けを呼ぶ声が聞こえたからだ。
この森に越してきて五年、人と会うことはなかった。
こんなところで一体誰が助けを呼んでいるのだろう。
木々の間を走り抜け声のする方へ向かう。
そしてそこには一人の少年と少年に襲いかかる魔物がいた。
少年は何故か血だらけで左腕がなく、今にも倒れそうだった。
魔物が少年に飛びかかった瞬間、私は剣に手を掛け、抜くと同時にその魔物を切り刻んだ。
そして少年に問うた。
「少年、無事か?」
少年は私の目を見るとそのまま眠るように気絶をした。
私は急いで抱き抱え、自身の家へと連れて帰った。
――
目を覚ますとマレはベットに寝かされていた。
「ここはどこ?」
周りを見渡すが見覚えのない部屋だった。
そして自身の身体の異変に気が付いた。
左腕には包帯が巻かれていた。
「そうだ、腕が無くなったんだった…」
すると"ガチャ"と音が鳴り、ドアが開いた。
部屋に入ってきたのは銀髪の女性だった。
容姿端麗、見惚れてしまいそうなほど美しかった。
「目が覚めたか」
「ここはどこですか…?」
「ここは私の家だ。君の名前は?」
「僕はマレ…マレです」
「そうか、マレ。私はレイナ=プロンという。まずは君が無事で何よりだよ。ところでマレ、いきなりだがあんな所で何をしていたんだ?」
「僕は…逃げていました」
「逃げていた…?一体何から逃げていたんだ?」
「分からないです…。お母さんが逃げてって…」
「そのお母さんは?」
「分かりません。でもまた会えるって…」
「そう…ありがとう。今日はゆっくり休みなさい。また明日詳しく聞かせてもらってもいいかしら?」
「はい…」
レイナが部屋から出るとマレは一人考え込んだ。
どうして腕を無くしたのか、と。
必死に記憶を辿るが森の中で目を覚ました時からの記憶だけハッキリとしていてそれより前の記憶は曖昧だった。
完全に覚えていないわけではない。
何故腕を無くしたのかという記憶だけがスッポリと抜けていた。
いずれ思い出すだろう。
マレは再び眠りについた。
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