第8話

 スーパーから帰宅すると、まだ集団がいて驚く。

 20時で、子供はすでに家に帰らなければならない時間だろうに、少年もまだいる。

 睡眠時間大丈夫?

 と要らない心配をしてしまう。


「持ちますよ。」

「いいですよ。」


 帰って来た恵に気づいた少年は彼女が両手いっぱいに抱える大袋のほうに手を伸ばそうとするが、それを即座に断る。

 こんな少年に持ってもらうのは年上として問題だろうし、さらに言えば、よくわからない人に持ってもらうのは抵抗が大きい。


「まだ続きますか?ところで、何か用事でも?あの2人はどうも私の親族らしくて私に何かしら用事があるようですが、あなた方は金銭の相談ですか?」

「違い、違います!!僕らは少しでもあなたとお話がしたくて。」


 早く解散してほしい恵は訪ねてきた理由を当ててみようとすれば、思いっきり少年に否定される。


 お話がしたくて?何の?


 恵からすれば見ず知らずの人と話すことなどなく、ただ首をひねるしかない。こっちはこっちで面倒だと思った恵は家の中に買ったものを要冷蔵が多いのでしまってすぐにまた家を出る。


「とりあえず、母親とその娘はお帰りください。どうも面倒な話の上に私にはデメリットしかなさそうですから。あ、無理やりこの家に入ろうとするなら警察呼びますから。荷物持ってどこへでも行ってください。それで、あなた方の話はすぐに。」

「待ちなさいよ!!」


 今まで黙っていた童顔女性が叫んだ。


 だから、近所迷惑だって。空気を読んで。


 その声にため息が出そうになるが何とか食い止める。


「何勝手に仕切っているの!?だいたい、あなたが居留守なんて使うからこんなことになっているんでしょう!?何を偉そうに構えているのよ!」

「いや、普通知らない派手な女2人が立っていたら警戒すると思いますよ。何か宗教関連の勧誘かな?とか。この男性みたいにスーツの人なら詐欺師かインターネットかな?で済みますが、宗教関連は遠慮したいので。」

「詐欺師だと思われていたんですか?」

「プフッ」


 恵の発言に落ち込む男性と噴出した少年。

 なんともシュールな絵柄だ。


「常識的に考えてそんな恰好の人たち、知り合いでない限り玄関を開くことはありませんよ。わかったなら常識範囲の服を着て出直してください。」

「なんですって!!この格好のどこがおかしいの!?お母さまも私のもパリの高級ブランドのファッションよ!!」

「そうですか。では、ここは庶民なので庶民らしい恰好でこちらが玄関を開けてもいいと思えるような服装で来てください。あと、お2人ともあまり服は似合っていませんね。」

「なんですって!!お母さま、こんな礼儀も知らない子に付き合う必要はないわ。お父様に直談判してきましょう。最初からそうするべきだったの。」

「お黙りなさい!!」


 子供のように騒ぐ童顔女性は最後に母親に意見するが、それを一喝するのはその母親だ。それに驚いたものの、成り行きを見守ろうとすると、母親がギロとこちらを睨みつける。


「先ほどから聞いていれば百合香、あなたは少し黙っていなさい。恵、あなたは母親である私のいうことが聞けないの?」

「えっと、それは先ほども言いましたが、あなたを必要としていないので。」

「そう、それなら無理やり連れて行くしかないわね。ここでおとなしくしていれば痛い目を見なかったのに。」


 そういって狂気をはらんだ目見た母親は私のほう向けて人差し指を向ける。その瞬間、背後にいつの間にかいたらしい先ほどの子狐が急に大きな狐となり恵を背後から襲ってくる。


「こういう時、母親のほうを間違えて攻撃してくれたらいいのに。」


 何となく恵がそうつぶやいた瞬間、その大人狐が恵を襲う一歩手前で方向を変えたと思えば、母親のほうに一直線で向かい、そのまま突進してしまう。咄嗟のことで反応できない彼女はされるがままに大きな電流を体中に浴びることになり、感電してしまい悲鳴を上げる。


「うわ、痛そう。」


 恵も一瞬何が起こったのかわからないが、ただわかるのは自分の体は無傷であり母親が自業自得に終わった結果だ。

 その無残な姿をさらす母親を見て恵は顔をしかめる。


「とりあえず、救急車ですね。」


 呆然とした顔でこちらを見る3人をよそ目に恵が言う。

 その言葉が聞こえていないのか、救急車は呼ばれずに沈黙が落ちる。


 キキーン


 そこへ黒い車がすぐ横に停まる。

 新たな登場人物に飽き飽きするが、下りてきた男性たちは車から降りるなり母親と娘を丁寧とはいいがたい手つきで車に突っ込んでいる。娘は叫ぶがそれを無視して担ぎあげられる始末だ。

 その男性の1人が少年の前に片膝をつく。


「三条家に仕える黒崎です。佐久良家の方には大変なご迷惑をおかけして申し訳ございません。」

「黒崎さん。僕は佐久良家の当主代理でここにいる。彼女たちへの罰は彼女たちへの支援の一切を禁じることだ。それを破れば今度こそ佐久良家は三条家を敵とみなし排除にかかる。」

「承知しております。今後一切の支援をいたすことはありません。三条家当主はあれらの追放を決定しました。」

「その当主はその言葉だけで済まそうと?」

「むろん、佐久良家当主に会いに行き謝罪をしております。」

「わかった。もう行っていい。あいつらは決してここに近づくことがないようにどこか遠くに放置しておけ。」

「はい。では、失礼します。」


 黒崎は頭を下げて車に乗り込むと、すぐに車は発進してあっという間に見えなくなる。高級な車なのか音が一切しなかった。


「さて、邪魔ものはいなくなったので、私たちもこれで失礼します。」

「え!?」

「恵さん、遅くまでご迷惑をおかけして申し訳ございません。」

「いいえ、気を付けてお帰りください。」


 男性の言葉で横で名残惜しさ満載の表情をする少年だったが、男性は続けて恵のほうに謝罪をして渋々従っている。

 どんな関係なんだろう、と思いながらも男性と少年の2人の背中を見送ってから家に入る。

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