捨てられ我が道を行く姫とたった1人の番犬

ハル

第1話

 人の世に現れる人ならざるもの

 それらに対抗すべき神によって生み出された力

 「異能」


 今よりもずっとずっと昔、まだ機械どころか作物を税として納めていた時代の話。


 妖の王が百鬼夜行を連れて世界からとある島国にやって来て、人に害を与え、それは想像以上に大きな被害だった。そんな状況を打開すべく、彼らに対抗する力である異能を発現した人達が彼らは妖たちを次々と倒していき、いつしか妖の王は姿を現さなくなったことで、平穏は戻った。


 それから数百年経った今も、人に害を与える人ならざるものは現れており、それらを退治する役目は国や個人で依頼している。

 異能を持つ家系は多いが、その中でも最大手である”佐久良家”

 彼らは食品や薬品、運送など多岐にわたる巨大なグローバルグループ企業の創始者であるとともに、本業は人ならざるものを退治するのだ。

 本家と分家があり、その間には大きな力量の差があったが、得意不得意があるので威力だけで比べることはできない。本家には当主がいるが、その息子と孫までおり、傍から見れば、まさに羨望を向けざるを得ない理想的な家庭だろう。


 ただ、この家にも汚点があった。

 16年前に生まれた当主の前妻が産み落とした2人の娘のうちの1人が当主の息子である若様とは別の男性との子供であることだった。

 その生まれたばかりの少女はそのまま孤児院、ではなく、体裁もあり屋敷とは別に都内の小さな一軒家で子供の育てるための付き人として暮らさせた。

 前妻ともう1人の娘はその娘に養育費を支払うことにはなったものの、前妻は佐久良一族とは別の異能の名門の家だったこともあり、彼女たちは颯爽とお金だけもらって実家に帰った。前妻にとって、生まれたばかりの娘はどうでもよかったのだろう。


 佐久良家と前妻の実家である三条家で、前妻の実家と佐久良家がその娘の教育費を折半することで話がついた。本当なら父親に渡そうとしたのだろうが、まず、その前妻が男のことを言わなかったし、当時、彼女は外で遊び歩いていたために誰が父親かもわからない状況だった。しかし、どちらも自分の家名を名乗らせるのは渋った。いや、一番渋ったのは前妻だった。そして、彼女には三条家の分家の1つであり、一番末端の家である西寺の性で出生届を出した。


 こうして、汚点となった娘、西寺恵にしでらけいと名付けられた、は成長し高校入学するまでになった。

 彼女を祝ってくれる人はもう誰もおらず、小さな一軒家で1人で住んでいる理由を彼女は知る由もなかった。

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