第6話 - 5 黒の輝石ーヘイ・オブ・エンシェントー
扉の先は白い部屋だった。上下左右前後天上天下唯我独尊白一色の部屋。壁と床、天井の境目が分かりづらく近くによってもわからない。無いに等しい。部屋にはこれまた錯覚を犯しそうな白い箱があった。部屋には箱一つ。他にはなにもない。灯りも時計もゴミ箱も窓も換気扇もないが白く明るい。光はどこから? 振り返って見える扉は浮いているように見える。扉だけ異物質的。そんな部屋であった。
白い箱は床との境目を失くしたように見えるほど白い。正六面体より少し横に長い立方体をしている。蓋や開けるための鍵口などは見当たらず、現状ではどちらが上で下なのか、はたまた横倒しであるのか。いったい箱が現在どの状態なのか判別がつかない。そもそも開くのかさえわからない。
手触りはなく、すべすべとしているわけでもざらざらでもない。『無』である。角がしっかりしており、材質はみたこともない代物であろうと予想できた。ただ白く、純白である。清らかに、清潔に、純粋に保って純潔。なんだ、これは。なんなんだ、ここは。
「ヘイ様」
ユメが口を開いた。私が一通り調べ終わるのを待っていたようだ。そしてその口ぶりからするに、この部屋の意味も、理由も、目的も知っており、この箱の正体も、使い方も、名前も知っているようであった。私は無言で次の言葉を待つ。
「ヘイ様。ここは黒の輝石、ヘイオブエンシェントのアジトです。目的は地球外知的生命体と戦うため。地球人は通常兵器を惜しみなく使うので、安全のために超能力を使って作りました。白は白百合を意味しています。花言葉は純白、純潔。百もの花弁が重なっているところからくる百合という花に私達エンシェントの結束を誓いました」
「エデン・レイとその仲間と戦う超能力者のチーム」
「はい。ヘイ様。姫川様がリーダーとなり、私とヘイ様が二枚の切り札として中心になって活動していました」
「……していた」
「はい。私の居た『地球外知的生命体が攻めてきた世界線』はすでに滅んでいます。理由は核の使用。危険兵器の乱発。地球そのものがなくなったので、エデン・レイ率いる地球外生命体は撤退しました。我々人類は地球と共に滅亡です」
「そんな……」
「ヨウヘイ様がいた元の世界を
「……そうか。そんなことが」
これは嘘ではないだろう。嘘を語る理由もないし、色々と合点がいく点が多い。
「それじゃあ、この箱がーー」
「はい。ここに黒の輝石とよんでいる石があります。ギルド名の由来でもあります」
ユメが手をかざすと、いくつかの電子回路が光るように走り、上の一枚板が横に自動でスライドし始めた。中には黒くてゴツゴツとした鉱石のようなモノがたくさん詰め込まれており、その一つを取って私に渡してくれた。手の上で転がすとところどころキラキラと光り、まるで宝石の原石のようだ。
「この石はどこからーー」
「敵から手に入れました。宇宙人が持っていたものです」
「エデン・レイが?」
「はい。それに関連して、このアジトの白、白百合にはもう一つの意味があります」
「もう一つ?」
「はい、ヘイ様。百合つまりガールズラブのことです。これは最近……タイムトラベルをしてから知ったことなのですが、この石には呼応する物質があるのです。この部屋を構成している白い物質がまさにそうです。この部屋も元はと言えば宇宙人たちのアジトのひとつでした。そこを私達が奪って使用していたのです」
「なるほど」
「この白い物質……それはガールズラブに関連していることがわかったのは本当に最近です。β世界線では市立崖の端商業兼桜山の丘ないし市営図書施設併設高等学校の校舎が白でした。α世界線では観覧車です。ホイールの白がそれに該当していました」
観覧車。観覧車にそんな意味がーー。
「δ世界線にもまったく同じ観覧車があります。あの巨大な観覧車です。そして、そこが敵のアジトになっています。おそらく最初の飛来地かと思われています」
「観覧車に? なんで?」
「あれは人工物ではないからです。能力によって、願いによって作られています。超能力者である私達にはわかります」
願い……なんだ、それは?
「ヘイ様。あなたの願いです」
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