第7話・雑談デート

 エメリオが雑談配信をしている頃、参歩とリーシャは【ストライク・バッカーノ】のコラボ配信をしていた。


 動画のタイトルは『土手川夫妻のデート配信』となっており、2人はプライベートサーバーで15年ぶりのコラボ配信を開始する。


「こうして2人で配信するのも久しぶりね!」


 開幕早々にリーシャは楽しそうにそう言うと、参歩は「まあ、あの日から連絡すらつけなくなったからね。急にランページに移籍しだすし……てっきり嫌われたのかと思ったよ」と離婚してすぐの時のことを掘り返すと、リーシャは「だってアナタに迷惑かけたくなかったんですもの! あの日に私がエメリオを妊娠していたことを話したら……」と言うと、参歩は「お袋も言ってたけど、君だけが抱え込む問題じゃなかっただろ? 俺たちの子だ! 例え君の家といざこざになったとしても、俺は離婚を取り消していたし、お袋は君に味方して他の解決策を一緒に考えてくれたはずだ」と言うと、配信を見に来ていたニコが1000円のスパチャで「あのぅ、ガチの夫婦喧嘩はやめてもらっていいでしょうか?」と参歩のチャット欄に投げてきたため、参歩はハッとなった。


 参歩は「んん!」と咳払いしてから配信を再開する。


「とにかく、この話はここまで! せっかくのデートなんだし、行きたいクエストはある?」


 参歩はリーシャにそう言うと、リーシャは「え? ええ……そうね」と言って、こんなことを提案した。


「今日はクエストに行かないでちょっと街を歩かない? リスナーの皆のコメントを拾いながら雑談みたいな感じで!」


 リーシャの提案に参歩は「君がそうしたいならいいよ……ただし、さっきみたいなのは無で行こう!」と言ってリーシャと共に【ストライク・バッカーノ】の街を探索することにした。


 参歩はリーシャと噴水広場につくと、エメリオとの初コラボのことを思い出した。


「エメリオと初コラボの時にここで待ち合わせをしたっけな……まさか自分の娘がVtuberになっていたとはね」


 参歩はしみじみとそう言うと、リーシャは「私もまさかあんな形であの子が会うなんて思ってもみなかったわ。翌日の朝にアナタの名前が出た時点でもう父親のことを隠すのやめようと思っていたもの。場合によってはエメリオをランページに移籍させようかとも考えていたし」と言うと、参歩はエメリオがインデックスに応募した経緯について口に出す。


「そもそもエメリオがインデックスに来たのって自分の力で君に楽をさせたかったって理由だよね? 君がVtuberであることはいつ話したんだ?」


 参歩の疑問にリーシャは「私がVtuberであることを話したのは去年のことよ。それまではただのイラストレーターとしか話さなかったけど……」と答える。


「改めて思うんだけど、君は配信とイラストレーターの仕事をしながらあの子の面倒を見ていたことには本当に脱帽だよ。ただでさえ子供の面倒を見るだけでも大変だったろうに……」


 女手ひとつでエメリオをここまで育てたことに脱帽する参歩にリーシャは自身の苦労を打ち明けた。


「本当に大変だったわ。配信はスケジュール調整でなんとかしていたけど、あの子の事を世間に隠しながらVtuberを続けていくのは楽じゃなかった。まだ小さい時はひとりで眠れない時が多いから寝かしつけるのが大変で、小学生になったら母子家庭ということでイジメにあったりもして……それでもあの子は反抗期になってもグレることなく。公立高校に進学してくれた時は嬉しかったわ。引退してパートをいくつも掛け持ちしようかとも考えたこともあったけど……あの子はイラストレーターの仕事をしている私を見るのが好きだったから、引退せずに続けて、あの子にVtuberのことを話したら、Vtuberになりたいって言いだしたからあのアバターをデザインしたの。まさかアレで気づくとは思わなかったけど……」


 リーシャはそんな苦労を打ち明けると、両者のチャット欄に「ところでおふたりの馴れ初めについて聞いてもいいですか?」と多くのリスナーが馴れ初めについて尋ねてくるため、リーシャは「なんか私たちの馴れ初めについて皆気になっているみたいね」と言うと、参歩も「うん、俺の方に関してはインデックスの皆からおんなじ内容の質問が飛んできてる」と返して参歩はリーシャとの馴れ初めについて話した。


「俺の所の古参勢で覚えている奴はいるかな? 俺がリーシャと初めてコラボした時のこと覚えてる奴はいる?」


 参歩はリスナーにそう尋ねると、チャット欄に「ノ」「( ´ ▽ ` )ノ」などがいくつか出て「確かかなり怖い謎解きホラーゲームでしたっけ?」「2人でクリアするまでコラボしたよね?」などが上がると、リーシャが当時のことを話した。


「当時、私の担当だったマネージャーがかなりのドSで……ホラゲー配信を強要されていたのよね」


 リーシャのカミングアウトにリスナーたちは「あれマネージャーの方針だったの!」「なんだそのクソマネージャー!」とチャット欄で騒ぎ出す。


「で……俺は今でもそうだけど、ホラゲー配信の経験が豊富だったからサポートとしてリーシャについていたんだけど、あまりにも頻度が多いからおかしいと思って相談に乗ってあげたのが始まり……」


 参歩はそう答えると、チャット欄に「そのマネージャーってどうなりました?」と言うのを見つけて参歩は事の顛末を明かす。


「首が飛ぶようなことにはならなかったよ。ドSではあったけど、性根が腐っているような人じゃなかったから……ソレが原因で他の人を担当することになった時も、リーシャに謝りに来て……それから5年後に寿退職で辞めてる」


 参歩がそう言うと、リーシャはそれから先のことを話した。


「それから私はこの人と頻繫にコラボするようになって、ソレを機にお付き合いし始めたの! オフの時はしょっちゅうデートに行ってたわ」


 続くように参歩は「それから交際半年で結婚して、3ヵ月ぐらいで起こったある一件が原因で離婚して15年経ってエメリオが俺の前に現れたのが元で今に至るというわけだ」と結婚とこれまでの道のりを簡単に皆に説明すると、チャット欄に「娘さんとのコラボ配信は続けていきますか?」と言うのを見つけて、あることを思い出した参歩は、そのことをリスナーに伝える。


「それと、近いうちにエメリオと【ライオットブラザーズ】で勝負する配信をやるから皆楽しみにしてくれ! 今年のインデックス杯にウチの子がニューフェイスとして出場するぞ」


 参歩の告知にチャット欄に「久しぶりに参歩さんの『銀狼』が見れるのか」「この人、実の娘にも容赦なさそう」というメッセージが目立つ。


そして当日……リスナーたちの言う『銀狼』の意味と、その恐ろしさをエメリオは体感することになる。

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