ベリーの憂鬱 ②
朝っぱらからこんなに出くわすとは。今日は厄日ねとベリーは思う。
それから、少し疲れた顔で良さオスに尋ねかけた。
「こいつら何」
「守り代とか言って、色んな店から金を巻き上げてるせこい奴らさ」
そう答えると、良さオスは店の主として毅然とした態度を取って見せた。
「僕がそんな脅しに屈するとでも思うのかい。商売の邪魔だ。帰ってくれ」
すると、どら猫の一匹が指をぽきぽき鳴らし始め、獰猛な笑みをその顔に浮かべていた。
「へぇ、またボコボコにされてぇみたいだな」
「あらら、こいつ怒らせると怖いぜぇ? さっさと頭下げた方がいいんじゃねぇーのぉ?」
「魔法の杖よ、空で輝く火の星を写し取れ。
何か思うよりも先にベリーは魔法を唱えていた。そして、冷淡な眼差しをどら猫二匹に向けながら、火の星が浮かぶ杖を振るった。
「死ね」
「ニャチチチチっ!!」
「みっ、水ぅ! 水ぅう!」
火球をぶつけられ、火だるまにされたどら猫達は、悲鳴を上げながらどこかへ駆けていく。直後、ベリーはふんと鼻を鳴らし、何事もなかったようにまたジュースを嗜み始めた。
「これであいつらも凝りただろう。ごめんね、巻き込んじゃってさ。助かったよ」
「奢ってくれたお礼。それに目障りだったし……ヒロインやれそうもなかったしぃ」
はぁ、とベリーは溜息をつきながら、空になったカクテルグラスをカウンターに戻し、そっと頬を押さえた。
「クリムがいてくれたらな……」
か弱き乙女を演じて、きっとその背に隠れていた。で、怖かったとか言ってそのあと彼に抱きついて――――、妄想を膨らませていると、「彼氏?」と問われ、ベリーは首を横に振った。
「ううん、まだ。あのさ、ちょっと聞いてくれる?」
そう言っておもむろに恋の悩み相談をし始めると、良さオス、いや、店を守る為に啖呵を切ったイケ店主は聞き上手で、相談し終えるとこんなアドバイスをしてくれた。
「王子様ってのは与えられるのが当たり前。彼もそう生きてきたと思うから、君の方から積極的にアプローチをかけないと、いつまで経っても今のままだろうね」
「やっぱり? ほんとそれとなくだと全っ然気付いてくれなくて」
「なら、頑張ってぐいぐい押してみようか。君可愛いから、絶対いけるって。僕が保証する」
「ありがとう。やる気でた」
ベリーはイケ店主に笑みを返すと、またねと手を振って店を去る。
その時彼女は、たまには一匹で外出するのも良いなと思っていた。相談に乗ってくれる良さメンとも出会え、英気を養えた。
宿に戻るとクリム達がトランプをしていて、直後に彼の顔を見て、あ、二日酔いに効くドリンクを貰ってくれば良かったと思い、ベリーは僅かばかりの望みをかけて、冷蔵機器の中を漁る。
ビンにはどれも濃い色が入り、外からは中の色合いが分からない。ラベルを見たって当然分からず、ベリーは階下のフロントまでダッシュで行き、するとあるらしく、名前を教えて貰えてダッシュで部屋に戻った。
「クリム~」
ハートマークが付きそうなほど甘ったるい声をクリムに掛けながら、ベリーは冷蔵機器から取り出した一本のビンを彼に差し出す。
「これ、飲むと二日酔いにすっごい効くらしいの」
「……ありがとう」
力ない笑みを浮かべて受け取るクリムを見ながら、おし、好感度アップとベリーは心の中で舞い上がっていた。ぐいぐい押せとアトバイスをされたが、いきなりは出来そうにない。今はまだ地道に、自然とそれが出来るようになるまでは地道なポイント稼ぎに勤しむ所存のベリーである。
それが功を奏したようで、クリムの顔色はみるみる良くなり、「君のおかげですっかり良くなった」とまた感謝をされ、昼には食堂で、楽しい食事を取ることができた。
「涼しくなってきたし、英霊達の顔でも見に行かないかい?」
夕刻。プチィと一緒にクリムにそう言って連れ出され、遊歩道を真っすぐ、ここに来る時に右に曲がったT字路の左側にいく。
すると手すりのついた丸太階段があり、登った先には墓地があった。
静謐な空気が漂うその中を歩き、クリムが足を止めたのは、一際目立っていた大きな墓石の前だ。
他は白石だというのに、これだけは濃い青色。まるで、深い海の色をうつしとったような綺麗な色合いをしていた。
「勇ましく戦い、散っていった英霊達よ。上等な酒を持ってきたんだ。僕らとも飲もうじゃないか」
クリムはそう言うと、宿から持ってきた酒瓶のコルクをあけ、逆さまにして地面に滲み込ませていく。そして、中身が少なくなってきたところで向きを戻し、少量を口に含んでいた。
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