にゃんこ・な・ふぁんたじー 太陽と月の猫歩軌

ねこあな つるぎ

プロローグ

 下の花壇では花が揺れ、上の洗濯紐ではシャツが揺れる。

 大きな車輪がことこと音を立て、その横では子供が歩くような、小さな靴音がしていた。

 賑わいを見せる通りの方でも、沢山の小さな靴音がしている。


 ただ、その音を鳴らしているのは人間の子供という訳ではなく、人のように後ろ足で立って歩く、猫達だ。


 三毛キャリコであったり、縞毛タビーであったりと、見た目は千差万別だが、彼らには共通している事柄がある。

 皆、人のような生活を送っていた。「にゃあ」なんてあまり口にしない。口にするのは人の言葉だ。


「おい、新聞見たか? 前線がかなり押し込まれて、奴ら、もうすぐそこまで来てるってよ」

「ああ、見た。怖いよな。騎士連中は何やってんだよ。あいつら国を守るのが仕事だろ……」


 新聞を手にしている猫達は多い。

 危険が迫っているこの街から、離れようとする者もだ。

 今、この世界に未曽有の危機が訪れていた。


 大陸の北、砂とともに生きる猫達が暮らす砂の国に、突如として現れた冥府の軍勢が、僅かひと月足らずで彼の国を落とし、この世界を我がものとせんとそのまま大陸を下ってきていた。


 当然、逃げる者達は皆、南へ向かい、そこの片田舎の出の肌縞スキンタビーの猫、セサミという彼も、この手土産を片手に故郷へ帰る途中だった。情報というのは金になる。一杯奢ってくれることだろう。向こうにいる新聞記者の友が。


 赤毛のクリムがいなくなったのが大きいよな。セサミはそう思いながら、南へ向かう馬車に飛び乗る。

 帰りの道すがら、揺られ続けるだけで暇なこともあり、セサミは彼のことをずっと考えていた。

 いったい何処で、なにをやっているのだろうかと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る