KAC20228 私だけのヒーロー

@wizard-T

カッコいいわけじゃない

 ————————————ヒーロ-様だったんだろ?

 確かにその通り。


 ————————————じゃあこんな事やっていていいのかよ。

 バカ言いなさい、その裏でどれだけ必死になってたかわからないの?そうしているからこそ、ああする権利が与えられていると言うのに。一体何人が、あの境地まで達する事ができるって言うの?悔しかったらやってみなさい。


 そう言うと、堅苦しいとか大ファンなんですねとか言い捨てられる。

 そしてその分だけ精神力を回復してるんだから、やっぱりみんな彼にお世話になってるじゃない。


「でも係長、今月でやめるんでしょ」

「やめないわよ、あくまでも産休なだけ」

「それにしても係長、ほどなくして課長になるって噂があるんですけど」

「噂は噂よ、とにかく産休中の引継ぎは個人個人済ませておかないとね」



 そんな事をしてる暇はない。

 部下の子に仕事を回さなければいけない。産休申請期間まではあと二十日、まだと言う人もいるかもしれないけど私に言わせればもうって言う気分しかない。

 テレワークとかなんとか言うけど私はこのおなかでもオフィスに出てきている。まあ通勤時間30分って言う特権階級でもあるけど、それでもやりたいものはやりたいのだ。



「係長聞いてくださいよ、小野川が」

「あの子はもうちょっと手に負えないわ。私もすぐ追い越してやるって頭に血が上ってる感じでね、社長に産休申請の際に浅野課長のとこへ押し込んでやった方がいいって言ったんだけど、ほどなくしてそうなるって聞いたわ」


 そんな私の事を目の敵にしているのが部下の小野川君。

 彼は名門大学出身で自分のランク以下の大学出身者を見下す所がある。殺気って言うかずーっと私に絡んで来てはああだこうだと言い出し、そうでない時は仕事しかしていない。

 高卒の係長より下なんて認めたくない、だから絶対追い抜いてやるって目を輝かせてるけど、その目の輝きが悪い方向に進まない事を祈るしかない。


「決して派手でなくてもいいのよ、じっくりじっくりとやっていれば。なんかあいつがいないとダメだよね、いなくなると寂しいよね、そう思わせなきゃ」

「相当に難しいですね」

「そう、彼のようにね」



 戦績だけ見れば、彼は派手なスターではなく脇役でしかない。

 そんな脇役でも十分に愛され、そしてその姿を見せている。



「そうですか、それが理由ですか、係長の」

「それだけでもないけどね、単純に好きなのよ、私もうちの人も。そういうのって大事だと思うわ」

「そうですねー」


 とか言うが、結局のところは愛されるってのが最優先事項であり、最難関なのかもしれない。


「彼、まともに育てば社長まであるって聞いたけどね」

「現状の小野川を愛したくないですけどね」

「それに気づけばいいんだけどね」




 ヒーロー様にならなくてもいい。ただ愛される人になってもらいたい。

 もちろん男とか女とかどうでもいい。


 それこそが一番難しいかもしれないけど、そのためには決して手を抜かずに仕事もこれからの子育ても励むより他ない。




 だからこそ、いざって時は言わねばならない。




「やってやろうじゃねえかこの野郎!」

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