第24話 手当てをして仲直り

 私はフェンリルの脚が弱っていることに気がついた。さっきフェルルの攻撃を避けた時、足首をひねるような動きを取ったからだ。あれは多分、足腰を悪くしていたから、上手く地面に着地できなかった証拠しょうこだろう。


「ねぇ貴女、脚悪いんじゃないの?」

「答える義理ぎりはない」

「そうかもしれないけど、ほっとけないよ。ねぇ、ちょっと見せて」


 私はそう言ってフェンリルに近づいた。

 しかしフェンリルは牙を剥き出しにし、「グルルゥ」と短く吠える。それに反応して、フェルルが剣を構えたが、それを私はせいした。


「私は貴女に危害きがいを加えるつもりはないよ」

「わかるものか。人間など、簡単に裏切る」

「それは否定出来ないけど、お願い。少しだけ私を信じて、それでも駄目なら私を食べたって構わないから」

「師匠!」


 私がそう答えると、フェルルが勢い余って私を止めようとする。しかしそれすらも拒絶きのぜつして私はフェンリルに近づいた。


「そこまでの覚悟かくごがあるのか。では人間、貴様きさまに一度だけチャンスをやろう。だがもし私を襲うと言う気を見せ次第」

「わかってるから、ちょっと脚見せてね」


 私はフェンリルの右後ろ脚を見た。

 血が出ているようなふしはない。しかし、軽く触れるとフェンリルは苦しそうな顔をする。折れてるのかもしれない。そう思った私は、すぐにでも治療ちりょうをしようとフェンリルを押さえつけた。


「何をする人間!」

「貴女の脚を治すの、動かないで」


 そう答えると、目をカッと見開いてあばれ出す。


「私の脚を治すだと。無理だ、そんなこと出来るわけがない。この湖の力を借りても無理だったものだぞ!」

「私は医者いしゃじゃないから何とも言えないけど、ここの水は怪我けがを治すよりも身体をいやす効果の方が高そうだから、怪我次第は私の力で治すよ」


 そう言うと、私はフェンリルの脚にビルドメーカーを使った。

 私のほほの傷も、ゴブリンワイフの衰弱すいじゃくも治せたんだ。このくらい出来なくてどうする。と言うか、出来てほしい。

 私は期待半分きたいはんぶん行為こういけることにした。だって私には、これくらいしか出来ないから。


「師匠」


 心配そうに私を見守るフェルル。その手は未だに剣を握っていた。

 その合間にも、私は果敢かかんにフェンリルの脚を治そうと、心掛ける。


「人間、貴様」

「動かないで。もう少し、後ちょっと……」


 ビルドメーカーの働きは、ゆっくりだったが、確実にフェンリルの長年ながねんの怪我を治していた。

 少しずつ。ゆっくり、慎重しんちょうに。その努力に、フェンリルは何も危害を加えてこない。安心してくれているようだ。

 そして、


「終わりかな」

「本当に私の脚は、治ったのか?」


 フェンリルはポカンとしていた。

 しかし私は、「それを歩いてみてから」と答えると、フェンリルはゆっくりと引きずっていた脚を動かした。するとどうだ。さっきよりも、格段かくだんによく動いている。


「な、なに!?動いている。私の脚が、痛みもない」

「よかった。これで一安心だね」


 私はホッと胸をで下ろす。

 最初っから確証かくしょうがあったわけじゃない。だけど、出来ないなんて思ってたら、成功するものも成功しない。その思いで頑張ったのだ。だからこそ、上手くいったと言っていい。


「よかったね、師匠」

「うん」


 これで戦う理由は一つ消えた。

 私はそう期待したのだが、フェンリルは何故か私の前に座り込む。もしかして、不満だったのかな?そう思ったのだが、フェンリルの尻尾は左右さゆうに振られていた。上機嫌じょうきげんな証拠だ。


「ありがとうございました、貴女様」

「えっ!?」


 フェンリルはそう言って、深々と頭を下げてお辞儀するのだった。

 その行動に戸惑とまどいが隠せない私は、すぐさま困惑こんわくしてしまうのでした。

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