第18話 これってカカオ豆?

 私とフェルルはウィップフラワーの攻撃を何とか逃げ切り、森の奥の方まで逃げて来た。

 帰り道は何とか確保かくほしてるけど、走った後にすぐにまた走ったから、疲れはピークに来ていた。


「疲れたね」

「そう?だらしないなー、師匠」

「私はフェルルと違って、鍛えてないの。いいでしょ、そのぐらい」


 フェルルはひたいあせ一つ垂らすことなく、のうのうとしていた。

 対する私はと言うと、転生者の身体からだと言っても疲れはなかなか取れてくれなかった。


「水でも飲んだら?」

「そんなの持って来てないよ。でも……」


 ふと地面を見れば、かなり柔らかい土壌どじょうだった。

 ここけらビルドメーカーで土と水に分ければ飲めるかも、なんてことを考えてしまうほど、脳に酸素さんそ糖分とうぶんわたっていない。


「何か甘いもの食べたいなー」

「甘いもの?ケーキとかだったら、町に戻ったらいくらでもおごってあげるけど」

「そこまではいいよ。それに、食べるんだったらもっと庶民的しょみんてきな方がいいよ」

「しょ、庶民的?」

「例えばチョコレートとか?」


 まぁ昔は日本でもチョコレートは庶民の食べ物じゃなかったらしいけどね。今となっては、チョコレートなんて日常茶飯事にちじょうさはんじ気軽きがるに味わえるし、2月や3月には食品会社しょくひんがいしゃたくらみが加速かそくするもんね。バレンタインデーや、ホワイトデーなんて今じゃそんなもんだし。


「でも、そんなものないもんね」

「う、うん」


 フェルルは微妙びみょう相槌あいづちを打つ。騎士の家柄いえがらだから、よく食べていたのかもしれない。

 それにしてもみょうに子供っぽく駄々だだをこねる私が、自分でも嫌になっちゃったよ。


 と、不満たらたらで歩いていると、何か見えて来た。

 木になっている、黄色い実がある。

 もしかしたら、水分補給すいぶんほきゅうが出来るかもしれない。そう思い、私は喜んだ。


「フェルル、あれ何かな?」

「さぁ。採ってみればわかるよ」


 それもそうだと思い、1つ採ってみる。

 ラグビーボールみたいな形だ。それにしてもこの色合いに形状けいじょう、どこかで見たことがあるぞ。


「割ってみようか」

「うん」


 私はその実を割ってみた。

 すると中には真っ白な果肉かにく何層なんそうにもなっていました。


「これ何?」

「うーん、もしかしてこれって」


 私は何となくさっしがつきました。

 そこで果肉を取り除いてみると、中には茶色の豆が入っています。それをみて私は確信かくしんしました。これは、


「カカオ豆だ!」

「カカオ、豆?」


 フェルルはポカンとした顔で、首を傾げました。


「チョコレートの原材料げんざいりょうだよ。でも変だね、ここはそんなに暑くないよ?」


 知っての通り、カカオ豆はチョコレートの材料。だけど、地球だとブラジルやエクアドル、商品名にもあるガーナが有名だ。だけどそれらはどれも、暖かいところのはず。ここはかなり過ごしやすい環境だよ?


「変だね」

「あれじゃない?誰も近づかないから、知らない間に風に吹かれて、森の中で生えちゃったとか!」


 まあその可能性かのうせいは十分ある。

 でも今はそんなことよりも、


「ちょっと食べてみよっか」

「賛成!いただきまーす!」


 パクッ!フェルルは口の中にカカオ豆を入れた。

 しかしすぐに頬をすぼめて、涙を流す。


「に、苦い」

「あははっ。カカオ豆はミルクとかを加えないと、苦いんだよ。でもっ。うん、酸味があって美味しい」


 ブラックチョコレートを食べて来たからよくわかる。甘くても苦くても、酸っぱくてもチョコレートはチョコレートだ。


「師匠、よく食べられるね。私はこんなの無理だよ」

「こらこら、こんなのとか言わないの」


 私はちょっぴりフェルルにおきゅうを据えて、フェルルがいらなそうにしていた、カカオ豆を食べて元気を回復させた。

 さらに持って帰れそうなやつはとりあえず持って帰ろうと、袋に詰め込むことにしました。


「いやぁー、大量だね」

「でもそんなにどうするの?」


 フェルルは質問する。

 そこで私は素直に答えた。


「すり潰して、湯煎ゆせんして溶かして、チョコレートにするんだよ。今度はフェルルでも食べられるように、牛乳と一緒にね」


 私はキラキラ笑顔で、そう述べました。

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