第4話 フェルル・エーデルワイス

 私達は無事にいかにもない男達を全員ボコボコにした。パッパと手を払って気持ちを一旦リフレッシュすると、一息ついてから女の子に声を掛けた。


「なんとかなったね」

「うん」

「それより怪我とかない?変なこととかされてないよね」


 まぁそんな隙すら与えてくれないんだろうけど。考えれば考えるだけ、この子にとってさっきの男達の単調でぎこちない動きはかなりゆっくりだったに違いない。

 本当なら私が割り込まなくても1人で倒しちゃってたんだろうけど、悪いことしたとは思ってない。


「私は平気ですよ。それより、君こそ平気なの?」

「私?」

「そうだよ。私はこう見えて騎士家系の人間なんだ。だから本来、君みたいな戦いに不向きな人を守らないといけないんだよ。それなのに私は人に助けられてばかりで……」


 何だか気が遠くなるような重たい空気がただよい始める。

 そんな空気を払拭ふっしょくするべく、私は少しだけ声を張り上げた。


「なに言ってるのさ、困った時はお互い様でしょ。例え貴女が騎士だったとしても、私は今みたいな行動を取ってたよ」

「えっ!?」

「人に助けられてばかりなんて誰しもが経験する当たり前のことだと私は思うよ。それに私は貴女に守られてた。だから前だけを見て突っ走れたんだよ」


 勝手なことを言ってるつもりはある。

 だけどこれ以上に強いものはないのも私は思った。


「貴女が騎士だったとして、それで絶対に人を守らないといけないなんてルールはない。今できることを精一杯やってこその騎士でしょ」

「そんなこと言われても、家柄的にできないよ」

「だったら、まずその言葉遣ことばづかいから変えてみよ。そんな堅苦しい敬語けいごは必要ないでしょ」


 まずは話し方から変えさせてみる。自分でも何様かと思って仕方ないが、こんな息のつまるような感じは生きていてしんどいだけだ。


「こ、こう?」

「うん。笑顔もとっても素敵だね」

「笑顔が素敵?」

「うん。その調子で使命感から一度忘れてみよう。勇者とか騎士だとか意味わからないものは全部自分の作った妄想もうそうだってことにしてさ、その方が気分は軽くなって楽になれるよ」

「忘れる……使命なんてない」

「そうそう、その意気だよ!」


 何だか調子が出て来た。

 空気がどんよりから開放的な感じに変化するのが肌を通じてわかる。


「私はセラピストじゃないから完璧なことは言えないけど、私は今の方が素敵で可愛いな」

「可愛い。可愛い!」

「そう、可愛くてカッコいいはイコール最強!」


 ちょっと古い考えな気もしたけど、それでいい。ここで私は簡単な挨拶だけしておく。忘れないうちにしておこう。


「私、白澤黒江しろさわくろえ。よろしくね」

「私はフェルル。フェルル・エーデルワイス。これでも勇者、やってます!」


 めちゃめちゃ明るくて頼もしかった。

 ハキハキとしたキャピキャピ笑顔を私に振りまいてくれる。


「ところでクロエ、一つお願いがあるんだけど」

「いきなりだね。なに?」

「クロエのこと、私の師匠ってことで師匠って呼ぶけどいいよね?」

「あー、そうですね。はい、駄目です」

「えーなんで!さっき堅苦しいの無しって言ったでしょ!」

「それはそれ、これはこれなの。第一私は師匠になった覚えはないんだけど」


 いきなり師匠なんて言われたら私が一気に年寄りになったみたいで嫌だった。


「むぅ。じゃあ勝手に呼ぶから」

「いや人前でそう呼ばれても困るし、理由を聞いてない」

「だって師匠は私を勇者と騎士の重圧から解き放ってくれたもん。だから師匠は師匠なの!」

「いや、意味わからんて」


 ついつい本音がれてしまった。

 だけどそれとは別に、フェルルの表情は明るくて、それから実に頼もしい気配だった。

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