勃発!ドラゴン戦再び
天を覆い、ばさんばさんと翼をはためかせたドラゴンは……コォォオオ……と喉を唸らせエネルギーをチャージする。
あれは、つまり。
「ぶ、ブレスが来る……!」
カッ――!
目を灼くような眩い閃光。凄まじい熱。
ジュッ!
と一瞬で空気も大地も焼き尽くされる。
「ゆ、勇者……!」
私は、怯え逃げだそうとする馬を必死に制しながらその光景に息を呑んだ。
まさか。よもや。そんなことはあろうはずもない、が。しかし。
「グォォォォオオン!」
なおも恐るべきドラゴンの咆哮!
「っ……み、みんな、無事……!?」
なんと。マレフィア!
さすがは性格にこそ難はあれど優秀な魔導師としてエルフ陣営から推挙されただけある。
あの一瞬の間に防護壁を生み出し、ドラゴンのブレスから勇者たちを守っていた。
防護壁がカバーしきれなかった大地は荒野と化している。
素晴らしいことにのされた賊どもも防護壁のカバー範囲だ。
「ありがとうフィア……! ドラゴン、人を襲うなら……容赦はしないぞ!」
勇者が宝剣を抜き放ち構える。
「ドラゴン、つよい。ベル、わくわく。ドラゴン、にく、うまい!」
ベルラがやる気だ。
「わぁ~わぁ~! バカなまねはよせ~! ドラゴン相手に戦うなんて無茶だ~! せめてオレの縄だけは解いてくれ~!」
あぁ、なんと!
あの煩い男もしっかり防護壁のカバー範囲だったらしい。
ぎゃんぎゃんと煩く喚いている。
「グ、ォオオオン……!」
また。
まるでその声に呼応したかのように咆哮するドラゴン!
ギラギラと紅い瞳が、縄に巻かれた男を確かに見据えた。
「ひ――!」
ばさん!
と翼を打ち、強い風を起こすドラゴン。
「ぎゃ~!」
「ひぇ~!?」
「な、な、なんだありゃ~!?」
その衝撃に吹き飛ばされ、意識を取り戻した賊たちは、ドラゴンの存在に恐れ慄き。そして。
「に、逃げろ~!」
蜘蛛の子散らすとはこのことか!
という勢いで散らばっていく。
「ば、馬鹿者……! ドラゴンは動き回るものを追い回す習性が――」
ある。そのはずだった。
散らばっていく賊どもなど、普通ならばドラゴンの格好の獲物である。はずだった。
しかし。
このドラゴンは、賊どもなど一顧だにせず、武器を構える勇者たちすら見向きもせず。
「コォォオオ――」
「う、うわぁ~! た、助けてくれ~!」
あの男を。
狙っていた。
***
「フィア……!」
「っ……あぁ、もう! なんで、こんなこと……」
ドラゴンの狙いがあの男だとわかると、勇者はマレフィアに彼を守ることを要求した。
それは、勇者としては当然のことだった。
どんな理由や事情があるにせよ、目の前で恐ろしいモンスターに襲われている者を見殺しにはできない。
「でも、どうするの。魔法で勇者たちを援護は、難しいわよ!」
いかにマレフィアの魔法が凄いとはいえ、戦闘能力もない一般人を、強力なモンスターであるドラゴン種から守りながら援護するのは難しい。
しかし、ドラゴンは飛んでいる。
マレフィアの援護なしにどう戦う!?
「大丈夫、なんとかする。……ベル、いいね!?」
「ベル、なに相手もやることひとつ。たたかう。そして勝つ!」
だめだ。ベルラはなにも考えていない!
だが、勇者の剣はただのそこらの剣ではない。神のご加護強き特別製。そしてドラゴンは相変わらずあの男にしか興味がない。
勝機があるとすれば、そこだろう。
「ゴァッ――」
再び、ドラゴンのブレス!
視界が眩しい!
ドラゴンが狙っているのはあの男のみ。とはいえそのブレスの範囲はそれなりに広範囲かつ熱量多く、抉れる大地はそのまま火の海となる。
「ルクスフルーグ……“
ブレスの範囲から飛び出した勇者が、ドラゴンの横っ腹側に回り込み宝剣を振るう。
光り輝く刃から、眩く伸びる閃光。刀身の長さを遥かに超えたその超特大の剣閃がドラゴンの翼と体を切り裂いていく。
「グオオオオオ……!」
咆哮。
それは驚きか、苦悶か、はたまた怒りか、その全てか。
一心に男を見据えていたドラゴンのギラギラした紅い眼が、勇者に向く。
「ゆ、勇者……! おお、神よ……勇者をどうかお守りください……!」
私は聖印を握りしめ、勇者の無事を祈る。
ドラゴンは怒りに任せ、勇者に向けて鋭く疾風迅雷の如く突っ込んでいく!
ドラゴンの突進!
鋭い牙が勇者に食らいつこうとする。
勇者はそれを飛んでかわし転がっていく。身を捻り、轟然と振るわれるドラゴンの尾が更に勇者を追撃する!
――ガギィィイン!
「……くっ、ぅ!」
剣を縦に構えてドラゴンの尾を受け止める勇者。
無茶だ! ドラゴンの凄まじい力は、軽々と勇者の体を吹っ飛ばす!
「ベル……!」
「うがぁぁぁぁあ!!」
しかし。
地に触れるほどに低い位置まで降り立ったドラゴンになら。
ベルラの爪が届く。
勇者の狙いはそこだったのか!
ブレスは数秒から数十秒のチャージが必要で連続撃ちができない。ドラゴンにとって、武器はブレスよりもむしろ、その鋭い爪や牙、強い力で振り回す尾なのだ。
「グ、グォォオン!」
ドラゴンは硬い皮膚に守られ、空を飛び、鋭い爪と牙を持つ。が、ゆえに。傲慢である。と言われている。
ドラゴン種はたいてい、どれも、あらゆる他種族を見下している。
このドラゴンも。
飛び出してきたベルラを見て、ギラついたその眼は、どこか笑っているようにも見えた。
小さな獣人の力が、自分の硬い皮膚に傷一つつけられるものか、と。
「ガァッ――!」
飛び込んでくる小さきものを。
逆に喰らい尽くしてやろう、と。
そう思ったかどうかはしらないが、ドラゴンは鋭い牙の並ぶ口を大きく開け、ベルラに向かっていった。
「“めっっった裂き”!」
「が、ぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?」
次の瞬間。
再びおこる咆哮!
その声は、ドラゴンの苦悶そのものだった。
ベルラの鋭い爪が、ドラゴンの口の中をその言葉通り、めった裂きに切り刻んでいったのだった。
どれほどの硬い皮膚に覆われていても、口の中はそこまでではないということか。
熱には強そうだが。
「ギャオオオオン……!」
ドラゴンは首を振り、鋭くバザンと翼をはためかせると急速上昇していく。
吹き付ける暴風に、ベルラの小さな体が吹き飛ばされた。
「しとめ……きれない……!」
そして悔しそうなベルラの声。
「い、いかん。勇者、ベルラ、マレフィア! 構えるんだ! ドラゴンは怒りに燃えれば燃えるほど、執念深く殲滅にくる! あの身の捻り、突進が来るぞ!」
私は、叫んだ。
「なんで、あなたにそんなことが……」
わかるのよ、とマレフィア。
「私は……ちょっとしたドラゴン博士だからだ!」
ステラヴィル大聖堂では書庫番を勤め、古今東西のありとあらゆる書物に暇さえあれば目を通してきた。
ついでに言えば主だった役職もない私は割と暇であった!
「く、くるぞ……!」
縄に縛られて転がる男の悲鳴じみた叫び。
ヴォッ――――!
そして、次の瞬間……恐るべき烈風が吹き付けるのだった。
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