第174話 スマホのバッテリーを交換しました
頑なにガラケーを使い続けていた先輩でしたが、昨年にスマホデビューしました。そんな先輩がスマホを睨みつけて座り込んでいます。僕が傍にいる事も気がつかない。あまりにも集中しているので声をかけてみました。
「ガラケーよりも画面が大きいから見やすいでしょう」
「ああ、そうやな」
「えらい熱心ですね」
「芸能ニュースを読んでいたんや。読みだしたら、つい引き込まれてもてな。そやけど、このスマホまだまだ慣れんわ」
「スマホって便利ですよ。僕なんかこれ一台で、漫画は読むし、写真は撮るし、音楽は聴くし、映画まで観るんです」
「ほんまか~。そんな難しいことワシには出来んわ。……そうや、スマホでの将棋のやり方を教えてくれや」
まだ駆け出しのころに、先輩から将棋を教わったことがあります。先輩のスマホをお借りして二つのソフトをダウンロードしました。「ピヨ将棋」と「将棋ウォーズ」です。ピヨ将棋は、AIと勝負することが出来ます。対戦相手の強さが設定できるのですが、最強はなんと七段。一時期、将棋の沼にどっぷりとハマったことがあるのですが、僕の棋力は当時で三級くらいでした。七段なんて雲の上の存在です。
将棋ウォーズは、ネット上での対人戦アプリです。棋力に合わせてコンピューターが相手を選んでくれます。勝負の前に持ち時間の選択があり、僕の場合は10分の持ち時間ルールを選択して遊ぶことが多かった。スマホを見つめての将棋なのですが、勝負が始まるとAIにはない対戦相手の息遣いを感じます。将棋って、一局を通してドラマになっています。対戦相手との駆け引きを楽しめるようになると、沼にハマります。この感覚は、AIでは感じられない。人間との勝負だからこそ感じることが出来る醍醐味になります。そうしたスマホで将棋を遊ぶ場合の注意点を、先輩にレクチャーしました。難しそうな顔をしていましたが、ピヨ将棋を始めると勝負師の顔つきに変わります。頑張ってください。
現代社会において、スマホは僕たち人間に深く浸透しています。スマホで買い物をすることが出来ますし、友達との交流もスマホを介して行われることが多い。中国では、スマホの存在が浸透しすぎて身分証明書の役割を果たしているみたい。正に魔法の道具になります。目に見えない電波ですべてのスマホが繋がっているなんて、本当に不思議なことです。
でも、少し考えてしまいます。戦争なり災害でスマホを支えているインフラが破壊されてしまったら、途端に人々は生活に困ることになります。僕たちが当たり前と思っているこの世界は、実はとても壊れやすい。高度に成長しきった現代社会は、電気、ガス、水道、道路、電波、インターネット、サーバーそうした様々なインフラが一つでも欠ければ機能することが出来ません。そのような事態があってはいけませんが、そうした社会であることは理解しておく必要があります。
ところで、そうした文明の利器である僕のスマホですが、最近バッテリーが弱くなりました。2年近く使ったのでバッテリーの寿命みたいです。満タンにしても一日は持ちません。以前であれば、このタイミングで機種を変更していました。ところが機能的に十分なスマホなので、高いお金を出して機種を変更するのは、なんだか勿体ないような気がします。バッテリーを交換すれば、まだまだ使えます。ここで二つの選択肢を迫られました。
①業者にバッテリーの交換をお願いする。
②バッテリーを用意して、自分で交換する。
以前に、自分で交換しようとしたらスマホを壊してしまったことがありました。業者にお願いすれば安心なのですが、金銭的に少々お高くなります。僕はケチ臭い男なので、また自分で交換することにしました。まずバッテリーを手に入れる必要があります。差し当たってインターネットで検索をかけてみました。(話は脱線しますが、このググるという行為も普通になりましたね)
僕はアンドロイドのスマホを使用しているので、iPhoneのようにパーツが充実していません。僕が欲しいバッテリーを取り扱っているサイトがありません。やっと見つけたサイトは、「アイ・キングモバイル」でした。香港に事務所があるようです。
――なんだか怖い。
アマゾンプライムや楽天でネットショッピングをするのは慣れました。何度も利用していますしトラブルに見舞われたことがありません。しかし、独立したサイトというのは、そうした信用できる要素が全くないので、騙されやしないかと心配になります。そこで、「アイ・キングモバイル」そのものを調べてみることにしました。
検索をかけると、このサイトで買い物をした体験談がいくつかヒットします。読んでみましたが、特に悪い評判はありません。心配はなさそうです。香港からの送料は1300円も取られますが、国内で宅急便を使うことを考えるとかなり安い。購入することにしました。
中国からの国際便なので、手元に現物が到着するまで結構な時間が必要だろうと覚悟していました。アマゾンで買い物をする時、到着までに1カ月もかかる商品を見たことがあります。でも杞憂でした。注文した次の日には、発送したことを知らせるメールが僕の元に届きます。ご丁寧に荷物を追跡できるサービスもついていました。日本で買い物をするのと何ら変わりません。注文から四日後に、バッテリーが到着しました。バッテリーは無事に到着したので、今度は僕のスマホの解体作業になります。以前、スマホを壊したときに、スマホを分解するための道具は揃えていました。ただ、一つだけ問題があります。それは、ヒーターです。
多くのスマホは、本体と蓋を接着剤で貼り付けています。ネジは使われていません。この接着を弱くするためには温めるという工程が必要なのです。専門的な業者は、スマホを温めることが出来る作業台と、ヒートガンを用意しています。ヒートガンはギリギリドライヤーで代用できますが、専用の作業台がありません。工夫することにしました。
作業台自体は机があれば事足ります。問題は、温めるという作業工程をどうするのかということです。小さなジップロックを二つ用意しました。その中に三分の一くらい水を入れたあと、空気を抜いてジッパーを止めます。それらを水を入れた鍋に投入して、沸騰させました。これで、熱い熱い水袋が用意出来ます。スマホが濡れないように表面の水滴をペーパータオルで拭いたあと、その水袋でスマホをサンドイッチしました。このまま10分くらい放置します。
バッテリーを交換した様子については割愛しますが、無事にバッテリーを交換することが出来ました。思った以上にうまく作業が出来たと思います。これであと2年は使えるでしょう。スマホ市場はかなり成熟してしまったので、昔のように最新機種が欲しいとは思いません。僕にとっては十分な機能になります。ただ、そうしたスマホを触りながら、最近感じたことがあります。ゲームのことです。
若い頃、ゲーセンやファミコンで電子ゲームを遊ぶのは、とても面白かった。ハードの性能は低いながらも、そこにはゲームを楽しませるアイデアが詰まっていたように思います。ところが、最近のスマホで人気のゲームは「放置ゲーム」になります。例えば、RPGでいうところの経験値稼ぎをする必要がありません。ゲームをしていない間に、勝手に経験値を稼いでくれるのです。確かに、経験値稼ぎはタイパは悪いし面倒な作業ではありました。でも、その面倒な作業の向こうに欲しい対価がぶら下げられています。果実を手にするその過程が面白かったと思うのです。
今のゲームは結果ありきです。過程をすっ飛ばして、果実を如何に素早く手に入れることが出来るかに躍起です。その最たる象徴が「ガチャ機能」だと思うのです。お金を出せば結果を手に入れることが出来る。レアキャラやスーパーレアキャラをチラつかせて、その最強のキャラクターを手に入れたらゲームを簡単にクリアできることを宣伝します。でもね、クリアするということは、ゲームの終わりを意味します。クリアすることが目的なのか、クリアする為にスーパーレアキャラを手に入れることが目的なのか分からなくなっています。 まあ、本当に終わってしまったら、ゲーム会社は儲からないので、次の目標を用意するのですが、それは無限ループへの誘いになります。博打の中毒と同じですね。
ゲームの面白さって、過程だと思います。また、人生の面白さも、過程ではないのでしょうか。紆余曲折しながらも、今を楽しむ余裕って必要だと思います。今回のバッテリー交換は、お金を出せば楽に終わることを、わざわざ自分で体験しました。僕にとっては、それが遊びだと思うんですよね。
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