第55話 明日香村にて
明日香村の山の中で一泊しました。峠の上に神社があり、その近くから山道が伸びています。その登山道入り口付近が平らになっていて、テントが張りやすそうだったので決めました。時間は夕方6時を回っていて、辺りは真っ暗です。他に選択する余裕はありませんでした。
暗がりの中、100均のランタンを枝垂れてきている蔦にひっかけて、まずテントを張りました。僕が使用するテントはドーム型の一人用です。入り口が完全に閉じられるようになっていて、テント内の温もりが外に逃げない冬仕様です。雪山でも使えます。
テントの設置が終わると、今度は炭をおこします。ライターで火を点けるだけなのですが、最近のライターは固い。押し込むのに力が要ります。気温は0度に近づいていました。指がかじかむ。火を点けるという些細なことが、とても煩わしい。
火を点けても、完全に火が回るのにまだ時間が掛かります。その間に、荷物の整理をします。使わない荷物はテントの中に、ビールや食材は手が届きやすい所にセットします。
案外重要なのは椅子です。簡単なもので良いので、椅子は用意した方が良い。キャンプというのは座っていることが多いので、椅子がないとかなり不便です。特に、零下になろうという環境で、地べたには座れません。また、椅子に出来るちょうど良い丸太なんて、そうそうあるものではありません。初心者であれば見落とすところです。最小限の荷物でありながら、ここは押さえたい。
極限の環境ですが、やっぱりビールは美味しい。次々と飲んでしまいます。飲みながら、仕込んだ鶏肉を焼くのですが、必ずアルミホイルが要ります。これがないと、中まで火が通りません。外はカリ、中はジュワ。そうした美味しい焼き鶏を食べたければ、必ず用意してください。僕も、ときどき忘れます。
僕は炭火焼に七輪を使います。ホームセンターコーナンで売っている可愛い奴です。二重構造で、自宅で使うこともあります。ダイニングテーブルに、ドンと置いて使います。コンパクトで使いやすい。
あと、ブルートゥースのスピーカーは欲しいです。スマホとリンクさせて音楽を楽しむのですが、動物除けでもあります。山の中のソロキャンプですから、無いとは思いますが獣に襲われる心配があります。
――ここは俺のテリトリーだ!
と、しっかりと主張することが大事です。いわゆる抑止力ですね。これで、安心出来ます。
夜が綺麗でした。特に、お月様が。
夜中に、3度ほどショウベンがしたくなってテントを這い出ました。ビールの飲みすぎですね。外はとにかく寒い。零下の世界でした。前のチャックを下ろして、用を足そうとすると、足元に影が伸びていました。見上げると真っ暗な空に、丸い月が白く浮かんでいました。
――えっ!
月明りって、明るいんですね。本が読めそうです。知りませんでした。なんだか、夢の世界にいるようです。寒さも忘れてしましました。
朝は、いつも通りに目が覚めます。これでは早すぎます。二度寝、三度寝を経て、6時ごろにテントから這い出ました。まだ暗い。でも、撤収の準備を始めます。野宿という勝手な行為だからこそ、早い方が良い。寝袋は裏返してバイクの上で干します。テントも干します。その作業の間、お湯を沸かします。
コンロは、カセットタイプです。30年来のお付き合いです。簡単な風防が付いていて、頑丈です。使い続けているという愛着があります。汚れて煤けていますが、火力は十分です。直ぐにお湯が沸きました。朝食は、いつもラーメンと決めています。寒い朝だからこそ、温かいラーメンが美味しい。身体なの中に熱を入れて、出発です。
今回の目的の一つは万葉文化館でした。しかし、10時にならないと開館しません。その間、キトラ古墳、高松塚古墳、亀石、石舞台古墳と巡りました。明日香村というひなびた村をスーパーカブで走ります。日本画の様な世界です。段々畑があり、案外起伏に富んでいます。ノロノロと走りました。
朝8時を回ると、小学生や中学生が登校をはじめます。通勤の車も増え始めました。社会が動き出すのを肌で感じます。僕は、呑気に史跡巡りです。10時になり、万葉文化館に入りました。目的は、当時の生活の空気感を感じることです。歌垣という、当時の歌の遊びを人形やアニメを使って紹介していました。昼寝も兼ねて、3時間もいました。無料です。心地よかったです。
その後、橿原古代研究所博物館に行き、2時間弱、滞在しました。最後は、大阪太子町にある、聖徳太子のお墓に向かいます。夕方の4時半に到着しました。閉館まで30分しかありません。足早にお参りした後、家路につきました。
足を運びたかった聖徳太子の史跡は、全て行きました。フィールドワークはこれで一区切りです。今後は、兎に角、本を読み込まないといけません。聖徳太子、仏教、神道、古事記、弥生文化、縄文文化、陰陽道、色々と知りたいことがあります。
古墳時代は戦乱の時代でした。ヤマトタケルの活躍が有名ですが、西日本が大和朝廷によって平定されていきます。飛鳥時代は、聖徳太子と推古天皇によって日本の基礎が整えられました。僕は、当時のダイナミックな変動を感じたい。特に、思想面のカルチャーショックが知りたいのです。まだまだ、時間が掛かります。同時進行で、「逃げるしかないだろう」の推敲も続けています。もうしばらくお待ちください。
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