第5話 野宿のこと

 コロナが世界を一変してしまった。これまでに当たり前だった常識が、通用しなかったり。反対に、新たなスタンダードが生まれたりしている。例えば、人と会えば当たり前に握手をしていたけれど、そうした習慣が無くなり、マスクをすることがエチケットになってしまった。


 一昔前は、モノ消費からコト消費へと、盛んに言われた。物を作って売る商売から、更に発展して「体験」を消費者に提供しようという考え方だ。例えば、演劇を鑑賞するとか、特別な体験を用意した旅行を楽しんでもらうとかだ。


 ところが、コロナ、ウクライナと世界的な問題を世界で共有するようになると、様子が一変してしまった。コト消費というのは、平和な世界だけに許された余裕なのかもしれない。資源の流通が制限されて、様々な所で物価高が始まった。


 そうした世情なんですが、今日から子供と二人で山に籠もります。電車とバスを利用して現地に赴き、そこから五キロ歩きます。誰も居ないところです。鹿や猪ならいます。


 若い頃に、自転車で旅行をしていたことがあります。ずっと野宿でした。日本国内において、気軽に野宿が出来る様なところはありません。基本的に、その土地は誰かの所有物だからです。山の中とはいえ、それは同じなのですが、一晩だけ無断で間借りします。最小限度の荷物で、真っ暗で寒い中、火を囲むことだけが娯楽になります。


 世が移ろい行く中で、僕達は様々な情報を浴びせられて生活をしています。振り回されていると言っても良いかもしれません。その情報が、本物か嘘かもわからないまま、分かったような気持ちになっています。


 一旦、世情から離れます。子供もパソコンから引き剥がします。末の息子は、ゲームの世界の中で、サバイバルを楽しんでいます。まー、僕も似たようなものなのですが……。兎に角、誰も居ない山の中で、自然を感じてきます。


 もし、「何故、野宿をするのか?」と問われたら、僕はこのように答えます。


「現実に帰るため」


 客観的に自分を見つめる時間として、野宿は有意義です。マラソンも自省としては、悪くないのですが、今回は息子と野宿を楽しんできます。色々と、語り合えたら嬉しいな。

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