守護者
猫又(一)
「やっと戻ってこれたのに、あの人の気配がない。住んでいた部屋はほかの人間がいる。引っ越ししたんだ……」
守りたい人が住んでいるマンションに来たが、どうやら離れている間に引っ越ししたようだ。猫又は座りこんでうなだれている。
シバは黙ったまま猫又を見ていたが、ポケットから煙草を取り出すと吸い始めた。煙をくゆらせながら目の前のマンションを見上げる。それからしょんぼりとしている猫又へ視線を移し、小さなため息をついて言った。
「ちょっと待ってろ」
言い終わった直後、猫又は地面に違和感をもった。シバが立っているところから何か異質なモノが迫ってきて猫又の足元を通り過ぎた。それはどんどん範囲を広げていく。
(シバを中心に水が広がるようにチカラが地面を覆っていった。『邪気返し』に似ているけど何か違う!)
猫又は地面から嫌な気配を感じて全身がぞわぞわとしてくる。首や背の毛が無意識のうちに逆立ち、
空には四足獣の
「居場所がわかった。行くぞ」
声をかけられシバを見ると軽トラへ向かっていて、地面にあった異質なモノは消えている。猫又はあわててシバのあとを追いかけた。
シバは無言のまま車を走らせている。
猫又は根付に戻らず、霊体のまま助手席に座っている。開けた窓からにおいを
ふいに猫又の表情が明るいものに変わる。なつかしい香りがし、進むにつれて香りは濃くなっていく。猫又の口が少しずつ開いていき、目が生き生きと輝きだす。
シバが車を止めた。猫又の視線は一軒家に釘付けで、目は大きく開いており、体が小さく震えている。
「シバ! あの人はここにいる!!」
叫ぶと軽トラから飛び出していった。門の前に着くと興奮して早口で話しだす。
「あの人はここに住んでいる! 間違いない! でもシバの言ったとおり、強いチカラのにおいがする。これが『式神』ってやつか!? どうしよう、このままだと祓われてしまうかもしれない!」
「……落ちつけ」
早く会いたいようで、興奮してしっぽの毛が立って大きくなっている。猫又は二つに分かれた尾を振り回しながら門前を行ったり来たりする。
「どうすればいい! たしかシバがつくった物は、
まるで犬のように正直な感情を見せる猫又に、ちょっとは落ちつけよと言いながらもシバの表情は穏やかだ。
シバは腕を組んで家を見ていたが、ふうとため息をつくと仕方がないという顔をしてポケットに手を入れた。中からスマートフォンを取り出し、操作しながら猫又に言った。
「落ちつけ。つてはある」
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