セカンド・ジャパン
藤光
オトナ試験
こんちは。さむいね。
ありがとう。あんたの健康に乾杯だ。これでちっとはあったまってくるかな。ああ、そうなんだよ。分かるかい。きょうが発表の日なんだ。あれだよ、合格発表をまつ受験生の気分っての? ま、こちとら若い子が受けてる大学受験とちがって20年越しの受験だけどな。ははっ。
おうよ。『指定難民特別在留資格試験』っていうのがほんとうの呼びかたなんだけどな。だれもそんなふうに呼びゃしないんだよ。
――オトナ試験。
おれのような難民認定や在留資格をもったガイジンのおじさんやおばさんが、
五科目あってな。社会常識、学力、体力、協調性、そして、この国への貢献度が試されるんだ。ラクじゃねえんだ。ぜんぶ日本語で回答しなきゃいけないんだぜ、本質的にガイジンなおれたちにゃハードルが高いんだ。試験を受けはじめた数年は手も足も出やしなかった。この国のやつらは、おれたちを合格させたくねんだろってかんぐりたくなるレベルさ。
怒んなよ、あんたのこといってんじゃねえ。でも考えてもみろよ、おかしいと思わねえか。社会常識や学力はともかく、体力や協調性ってなんだ? 自国民にそんな試験ないだろ。貢献度ってなんだよ。国の役に立たない外国人は市民じゃないってか。ガイジンをばかにしてんじゃねえよって思っちまうね。こちとら一度だって税金を滞納したことはないんだ。収入と納税額は
なんだって? いやそうはいっても、かんたんに国には戻れねえんだ。戻りたくっても、そもそも国にいられなくなったから逃げだしてきたんだしな。同じように難民だった嫁さんと結婚して子どもも生まれたし、ここで生きてかなくちゃならんのさ。
そのためには、オトナ試験に合格して
そう。入国して25年間のうちにジャパン・ステータスを手に入れないと、おれたちは在留資格を失う。不法残留として国外強制退去の対象になるのさ。この国は2022年以降、大量の難民を受け入れるのとひきかえに、在留資格を厳格化したんだ。ただ、入国管理局の人員は据え置かれたから、在留資格のない外国人の強制退去事務はとどこおったまま。その結果、生まれた大量の不法残留民によって作り上げられたのが『セカンド・ジャパン』さ。
――
知ってるかい。2022年以降、この国には、ジャパン・ステータスも在留資格も持たない人間が500万人も生まれてる。不法残留民であるため国からのサービスが一切受けられない代わりに、国に対する義務もない人間だ。インターネットを介して彼らがこの国のなかに作り上げた相互扶助のネットワーク。それが「
バーチャルな存在だし、市役所や警察の干渉を受けないからその実態は分からないけど、この国で起こる犯罪の半分は
じっさい知り合いの中には、ジャパン・ステータスをあきらめて
まだ下の毛も生えそろわなかったおれが、この国へやってきてから今年で25年たつ。
そう今年がさいごの受験だったんだ。合格しなければ、国外退去か
まってくれ。メッセージの着信だ……。
ふむ……ふむ……。
ああ、すまない。
だめだったよ。オトナ試験、不合格だ。
なんだよ、くらい顔すんなよ。いいんだよ、よかったんだよ。
え、なんでかって? いや、おれも嫁さんもだめだったんだだけどさ。娘が、15歳になる娘がオトナ試験に合格したんだ。よかったよ。ほんとよかった、ジャパン・ステータスをとった娘はこの国の大学に進学できるし、大学を出ればいい仕事につくことができる。昼間っからバーでくだをまくこともない。
おまけに同居してるかぎりおれたち夫婦もジャパン・ステータスをもってるとみなされる。
ああ、もちろん来年もオトナ試験は受けるさ。
このままじゃ娘に対してしめしがつかないからな。でも、いいだろう今日のところは飲んでいても。
もういっぱいグラスに
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