『自殺リレー』

石燕の筆(影絵草子)

第1話

『死にたい人募集

あなたも死にませんか?

その代わりあなたは死ぬまえに誰かを殺さなければなりません』

ポストに入っていた小さなチラシを持って門脇はある雑居ビルの一室に来た。


晴れやかな自殺。

気持ちいい自殺。

未来ある自殺。


そんなチラシが壁にべたべたと貼られただけの部屋に門脇は通されてにこやかなスマイルが似合うスーツの男とちょっとした面接をした。

「自殺は人間にとってどうしてもマイナスイメージがありますが、そんなことはありません。自殺も立派な人生の夢であり目標となるべき行為なのです」

そうよく通る声でスーツの男は言った。

「人生の終着点を今だと決めたならそれは今が死ぬべきタイミング。死ぬべき絶好のチャンスです。その時を逃してはいけません。それこそ後悔になってしまいます。苦しみながら生きるより楽に死ぬほうが何倍も有意義な人生といえるでしょう」

ハキハキとしたその声はよほど人と話すのがこなれているのか少しもぶれたりましてやしゃべりの勢いがなくなることはない。

普段は人と話すこともない門脇はその勢いにおされその(全日本明るい自殺の会)なる団体に自殺を支援してもらうことにした。

自殺を支援するという名目だが、なんてことはない。つまりは交換殺人を行うことである。

自分のターゲットとなる人物を毒薬などで亡きものにするかわりに同じように自分も他人にころしてもらうわけだ。

自分をころしてもらうにはポイントがあってそのポイントを稼ぐには人をころし続けなければいけない。

だが、警察などにマークされる心配はない。自殺の会が提示してくれる殺人は完全犯罪に近い殺人方法で警察はただの事故として処理するほどである。

ポイントがあとひとつに迫ったとき自殺の会は最後のターゲットとして自分の恋人を指名した。

恋人といっても別れた恋人でまだ未練は少なからずある。

だが、彼に迷いはなかった。

他人の命よりもまず自分が死ぬことしか頭にはなかった。

彼女の珈琲に毒を入れる。死ぬ姿は見たくないのでいつものように毒を入れたあとはその場から逃げるように退散する。

もうどのくらいの人をあやめただろう。多分一桁では足りない数だ。だが不思議に罪悪感はない。むしろ爽快感にあふれている。

そんなことを考えながら自殺の会にポイントをもらうために雑居ビルをたずねた。

雑居ビルにはいつものようににこやかに笑うスーツの男がいてポイントをくれるよう言うと、

スーツの男はよく通る声でこう言った。

「あなたは死ぬことなどもう考えていないはずです。あなたがころした人物たちはみんな生きています。私たちは自殺を勧めるのではなく人殺しをつくる会。あなたは立派な殺人者になれます。どうです?新しい生きる希望を見つけましたか?」

そう男が言い終わると門脇は持っていたナイフで男を何度も何度も刺した。

男は血まみれになって口から血を吐きながらも変わらない笑顔でこう言った。

「おめでとうございます。これでまた素晴らしい殺人者が一人この世に誕生しました。少しまえに世間をさわがせた〇〇や〇〇も実は我々の作品ですよ」

男はもう一度おめでとうと言うとそれに合わせあとから別の部屋から出てきた門脇が殺した全員が出てきて

「おめでとう」と声をそろえて男の発した声を追いかけるように門脇をたたえた。


門脇は笑いながら血まみれのナイフを手に人であふれる街へと駆け出した。

勿論その手でたくさんの人たちを殺めるために。

それが彼の唯一生きる希望なのだから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『自殺リレー』 石燕の筆(影絵草子) @masingan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る