第3話 住めば都

え?


何これ?城?


寮という言葉には似ても似つかないような、大きな建物がそこにはあった。

中は高級ホテルとか、高級旅館とか、そういう建物を想起させる作り。


さらにこの世界には珍しく五階建ての建物。

王城を除けば、これほどに高い建物など存在しないのではないだろうか?

地下もあるし、天井は高いし、何より設備が充実しすぎている。


料理店とか、カフェとか当たり前みたいにあるし、服屋や雑貨店も完備。

ここはイオンか?アウトレットモールなのか?

加えて魔術練習場、剣術闘技場、筋トレ施設に図書館まで。


娯楽施設も充実しており、大浴場は三つくらいある。

プールとか誰が使うんだよ!


この寮施設だけで、一生暮らせるぞ……。


絶対『S』クラス生徒二十人だけのための施設にしては広すぎるし、豪華すぎる。

それに何より驚くべきなのは、全施設、お金が一切かからない。

料理も雑貨も無料。


楽園じゃねぇか!神か!

『S』クラス寮、最強!


成績的に見て、俺はこれから三ヶ月しかこの寮生活を楽しめないのか……。

ちょっと悲しい。


まあ『S』クラスに自分がいること自体奇跡なのだ。

三ヶ月間も堪能できるだけ、喜ぶべきだろう。



「ベータ様のお部屋はこちらになります」


使用人に通され、俺は5階の角部屋に通された。

5階と4階が宿泊施設になってるとのこと。


しっかし最上階の角部屋を頂けるだなんて中々についている。

これも日頃の行いのおかげかもしれない。

朝から夜まで農作業に追われる毎日。こんな幸運があってもいいじゃないか。


って、部屋広おおおおおおおお


何この部屋!?


何畳あるんだ?分からん!

分からんくらい広い!


机に椅子に本棚と、すでに色々とした雑貨が置かれているのだが……


それでも広い!


ん?ちょっと待て、この椅子と机。

超高級ブランドのやつじゃないか?


ってことは……やっぱり本棚まで。

いやベッドも冷蔵庫も何もかもだ!

全部一級品の代物。一つだろうと、俺の家じゃ手が届かない。


もうだめだ。興奮が止まらない。

はぁ、とりあえず深呼吸しよう。

落ち着け自分!


すーはーすーはー。


一度冷静になって、使用人を側に部屋を歩き回る。

先ず目につくのは、大きなダイニングキッチン。


既に調理器具一式は用意されており、最新の圧力鍋なども棚の中から見つけた。

だが宝の持ち腐れと言うか……

料理が全部無料なのだから、わざわざ作る必要なくね?



次に寝室。おっとキングサイズのベット。

さっきも見たが、最新モデルのブランド品。


素材はレアな魔物の毛皮などから作られており、触り心地は抜群。

こんなベッドで寝たら、気持ちの良い夢でも見られそう。


ただデカすぎるだろ……キングサイズベット。

カップル用だろうな〜こんな大きさ。彼女いない俺への皮肉ですか?

リア充死ね!



あとはトイレ。これまた広い。

それに何か、いい匂いする。


消臭剤とかも完備されてるし、文句の付け所のないトイレだな。

強いて言えばウォシュレットあればいいのにね。

異世界に現代化学求めすぎだけど。



最後に洗面所。


大浴場が一階に一つと地下一階に2つあるのだが、それとは別に部屋のお風呂もある。

浴槽がでけぇ。


外の綺麗な景色も見れるし、全く『S』クラスは最高だぜ!



改めてリビングへと戻ってくる。

うんやはり広い。つか広すぎ。


これ何人入れるんだよってくらい広い。

ここまで広いと逆に落ち着かなそうだな。



「こちらがベータ様に支給された、制服になります。サイズなど不備がございましたら、いつでもお声がけください」


制服を受け取り、興奮冷めやらぬ中広げてみる。


魔術師なんて言うから黒いローブとかなのかと思ったが、想像以上に現代的のようだ。

マジ日本の学校の制服っぽい。


この世界のファッションレベル高すぎだろ!


そういや昔、サトウとか言う人間がファッションの歴史に革命を与えたとか、そんな話を両親から聞いたことがあるな。サトウって誰だよ?つか絶対、日本人だろ。

まぁ、今はいいか。


とにかく昔この世界に居たサトウってやつのおかげで、この現代的な制服もあるってわけだ。

ついでに俺のファスナー付きジャージも。

サトウさん、あざっす!


って、うわ!?


制服の素材…さらさらしていて、高そう。

考えてみれば制服を着たのは何年振りだろうか……。

ちょっと考え深い。


「食事の注文などありましたら、そちらの液晶画面からフロントにご連絡ください。お部屋までお届けさせて頂きます」


どうやらウーバーイーツのサービスまであるらしい。

服と言い、先進的すぎ。

中世っぽい世界なのに令和に追いつく勢いである。


「それでは、何かお困りなことなどありましたら、再度ご連絡ください。失礼します」


使用人の方は俺に向けて礼をすると、部屋の外へと出ていった。

途端に部屋には俺だけになり、気温が下がったかのような感覚に襲われる。


何だろう、少し物寂しい気もする。

広すぎるからだろうか?

何か雑貨とか、注文すべきかもしれないな。


この部屋は今から俺のマイホームになるのだ。

心休まる場所にしなければ。



にしてもこの豪華な家具に囲まれ、食事にも一切困らない生活。

まさに理想だよな。


娯楽も充実してるし、部屋だって広い。

こんな場所で三ヶ月も生活してたら、生活感覚狂いそうだ。


宝くじ当たった奴のほとんど、元の生活に戻れなくなって破産するとか言う話を聞いたことある。

今の俺はまさにそんな状況。


十分に気をつけなければ、すぐに生活は崩壊を迎えるだろう。

ここは自身への戒めのためにも、これからの目標を記しておくべきだろうな。


初心忘れるべからず。

この豪華な生活が日常に変化する前に、今の思いを刻み込んでおくのだ。

しかしノートを広げて気付く。

俺の目標ってなんだ?


元々魔術学園に合格するだなんて思ってなかったし、魔法の勉強を始めたのも趣味でしかない。

灰色の青春を薔薇色に塗り替えしたい。

それだけ。



けどそれってどうやるんだ?

……うん、分からん。


分かってたらそんな学生生活送ってねぇしな。

じゃあ、他の目標は……



根源への到達……とか?

魔術師は皆、根源に到達するのが目標なんだって。


知らんわ。どうでもいい。

魔術で家族とか村の皆の生活が便利になって、幸せになってくれればな……俺の魔術への想いはそれくらいだ。



あとは何だろ?世界征服とか?

やりて〜、夢だよな。

どうせなら魔王様とかに転生したかったよな。


なんて。

まあそんな現実を逸脱した夢を、思い描いても意味ない。



……てなると、やっぱ青春だな。結局戻ってきた。

こうなったら青春と真剣に向き合ってみようと思う。

曖昧すぎてどうしたら分からないが、こう言うときは難しく考えてはならないのだ。

安直に、単純に、まるで自分が小学生にでも戻ったかのような思考力で……


よし!


『友達を十人作る』


俺はそうノートに記した。

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