こいつは、めでたい!?

紗織《さおり》

こいつは、めでたい!?

「う~~~ん、どうしよう…。」

 後1週間でパパのお誕生日がやって来る。


でも、その夕食のメニューがなかなか決められない!?追い詰められてくると、もう誕生日なんていっそ来なければいいのにとまで思ってしまう。



 毎年お誕生日当日には、パパの大好きなメニューを作ってケーキも食べて、お祝いをしています。

 

 家族全員で一緒に食べられる週末が誕生日の時には、なんと豪華に『黒毛和牛のすき焼き』を作って食べるんですよ。


 そして平日ならば『ハンバーグ』。このメニューの違いの理由は至って簡単。だって平日は、子供達とママだけで先に夕食を食べてしまう事が多いから。


 いいお肉のすき焼きを作って、先に食べ始めようものなら、ついつい食べ過ぎちゃうんです。そして主役のパパが帰宅した時には、いいお肉は少ししか鍋に残っていなかった…という悲しい史実があったから。本当にごめん!パパ。



 えっ、もしかして『なんだメニューは既に決まっているじゃないか!』って今思いましたか?


 そうなんです。今年は平日だから、ハンバーグの年なんです。


 でもね、ちょっと聞いて下さい。今年は記念すべき50回目のお誕生日なんですよ。

 だから見た瞬間に『すごい!!!』って驚いてもらえるようなスペシャルメニューは無いかしらって、ずっと悩んでいるんです。



 ちなみに、デザートのイチゴのショートケーキの予約はとっくに完了しています。

 家族全員がお気に入りのケーキ屋さんのケーキなんです。


 子供が以前通っていたスイミングの近くで、何年も前に偶然見つけたそのお店。猫のマークが可愛らしい看板のそこは、見た目も味も最高のお店です。


 今では、家族の誕生日もクリスマスも結婚お祝いも全て、このお店のケーキをいつも予約して作ってもらっているんです。




 さて、主役のハンバーグはどうしようかしら?今年は煮込みハンバーグでも作ろうかな?


 「はぁ~、どんな風に作ろう?」

 大好きなお風呂にのんびり浸かりながら、イメージでハンバーグやポテトサラダをワンプレートに盛り付ける事を考えていると…。


 「そうだ!!!

 パパの大好きな物を表現したハンバーグプレートを作ってみよう。」

 ビックリ!急に空からアイデアの神が舞い降りて来たのです!


 という事は…、やっぱり!?だよね。


 「うわぁ、なんだかワクワクしてきた。

 どうやって上手に表現しようかなぁ…。」

 考えているうちに、あっという間に一時間も経っていました…。

 

 「のぼせちゃいそう…。もうあがらなきゃ。」


 でも、メニューが一度決まってしまえば、今度はなんだか誕生日が来るのが待ち遠しくなってきちゃいました。




 そして、誕生日当日。

 夕食の準備はいつもより早く、開始する事にした。


 ひき肉800g、卵1つ、パン粉適量、ハーブ塩、胡椒、黒甘味噌、醤油、ナツメグ、炒めた玉ねぎ一個分を入れて、よく混ぜる。


 4等分して、スペシャルな形に成形する。


 「ちゃんと火が通るかどうか少し心配だから、いつもよりちょっと強めに下焼きをしておこう。」


 表面を強火で焼いて、焼き色がしっかりついたら、デミグラスソースと一緒にコトコト煮込み始めた。


 「デミグラスソースはいつもより赤く仕上げたいから、カットトマトを多めに入れて作ろう。」


 ポテトサラダの他に、茹でたブロッコリーとコーンも準備して…。

 次々にプレートの上に並べる食材の準備が出来ていった。


 「さぁ、張り切って盛り付けていくぞ!」


 まずハンバーグは、お皿の上の中央に、デミグラスソースをたっぷりかけて…。

 そして、そのハンバーグの上には、サワークリームをかけて、ちょっと白さを演出。


 次に皿の下の中央には、下の娘が一推しのアイドルのカラーの着色料を使ってほんのり着色したポテトサラダを平たく盛り付ける。


 サラダを囲むようにブロッコリーを配置していき、コーンはパラパラとそのブロッコリーの上に散らすようにトッピング。



 さぁて、一体どんなプレートが出来上がったと思いますか?



 このワンプレートのタイトルは、

 『赤富士』。



 そうです。日本の象徴『富士山』の形に成形したハンバーグを作ってみたんです。


 赤いデミグラスソースで彩られた富士山ハンバーグの山頂には、ちゃんと雪をイメージした味のアクセントにもなるサワークリームがかけられています。


 そして富士山の麓に広がる山中湖をイメージ出来るように、下の娘から拝借した着色料の色は、何と「青」。

 でも、それをほんの少しだけポテトサラダに加える事で、全体的にほんのり淡い上品な水色に仕上げる事が出来ました。


 最後に乗せたブロッコリーとコーンは周りの森をイメージしています。



 「うん、なかなかどうして。ちゃんと絵画の『赤富士』のような綺麗な仕上がりに出来たじゃない。」

 自画自賛ながら、その料理の盛り付けが気に入ってしまった。そうです。私もパパと同じ位の富士山好きだったのです。



 せっかくの誕生日。出来れば全員揃って「いただきます」がしたかった。

 でもやっぱりパパから「今日も遅くなる」と連絡が入ってしまったので、残念だったけれど、いつも通りママと娘二人で、夕食だけを先に食べてしまうことにした。



 そして、お風呂に順番に入ったりしながら、皆でパパの帰宅を待っていた。



 「ただいま~。」

 ついに主役のパパがご機嫌で帰宅してきた。


 「お帰りなさい。晩ごはんは、特製ワンプレートなんだよ。


 パパと一緒に写真も撮りたいから、早く着替えて来てね」

 既にプレートを大笑いしながら食べ終えていた娘達が、楽しそうにパパに話し掛けていた。


 「おー、そうかそうか。今年も豪華な夕食なんだね。ママありがとう。


 じゃあちょっと着替えて来るよ。」

 パパは手洗いとうがいを洗面所で済ませると、早々に部屋着に着替えて戻ってきた。



 「ジャジャーン、『赤富士プレート』でぇす。」

 娘達はプレートの左右を二人で仲良く一緒に持って登場すると、効果音と食事のタイトルと共にパパの前にプレートを置いた。



 「えっ、すごい!よくこんな料理作れたね。僕達の好きな富士山なんだ。


 面白いね、絵画みたいな料理を作るなんて、今年のママの料理はアイデア賞ものじゃない。」

 パパは笑いながらピースをした。そしてワンプレートと一緒に、その姿を娘達にスマホで撮影してもらっていた。



 パパの食後は、みんなで揃ってデザートタイム。

「ハッピーバースディ」を歌って、ケーキの撮影を娘達が終えてから、全員でケーキを食べていた時、


 「ねえねえパパ、今日の山中湖のサラダをちゃんと食べていたって事は…、


 私の愛するS様の誕生日に私が作る『青いショートケーキ』もぜひ一緒に食べてよね!」


「!!!」

それは、あの真っ青な色に着色された生クリームがたっぷりのケーキじゃないか!?



 満面の笑顔で下の娘はパパを誘っていた。

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こいつは、めでたい!? 紗織《さおり》 @SaoriH

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