連載! 召喚勇者(自称)君と獣人娘ちゃん
ひぐらし ちまよったか
プロローグ
その壱 ーめざめー
――霧が流れるように、ゆっくりと視界が晴れていくのが分かった……自我を取り戻したようだ。
どうやら意識の無い状態で、崩れた遺跡の上に座り込み、ぼーっと景色を眺めていたらしい。
(……街の灯りが、見えるな……)
古代ギリシャ神殿によく似た装飾石柱が、所々に建ち残り、大小の瓦礫が散乱する夜の廃墟。
中央にある生贄の祭壇と呼べそうな場所で、膝を抱えながら、遠くにぼんやりと浮かんでいる街の様子を、柱の間から見つめている。
ここは、丘のような少し高い場所なのだろう、見下ろす形だ。
月あかりに照らされた街の周辺、森、川、畑、そして荒野。
遠く離れた暗い地平に目をやれば、いくつもの山々が闇の中、静かに整列している。
祭壇に座る俺の目の前には、倒れた女神像の首が、悲しげに転がっていた。
鼻のあたりが大きく欠けているが……美人だ。
――石の上に、どれだけの時間腰掛けていたのだろうか? 尻が痛む……いや、凍えているのかな? 体の感覚がおかしい。
首がうまく動かせない……呼吸は……出来ているようだ……まばたきはどうだ?
――少しずつ確認しながら、身体を目覚めさせる。
(金縛りに似ているな……)
自分を取り戻すのに、しばらく時間が必要だった。
(――どこだ……? ここは)
自我と共に徐々に戻ってきた五感が、この記憶にない場所の異質を訴えている。
――何かがしっくりこない。
(乾いた空気のにおい?……虫の声か?……遠くに見える街灯りも、やけに柔らかい気が……電灯ではない?)
初めて味わう雰囲気に、恐れがゆっくり瞼を開け、警戒心が強まる。
――人生で今まで感じたことが無いほど、感覚は磨かれ、神経が研ぎ澄まされている······まるで自分が産まれたばかりの様な気がする……冷たい物を差し込まれたがごとく、背筋に怖気が走った。
(この鋭い感覚はいったい何だ?)
――ごくり……。
ひとつ喉を鳴らす。
(月明かりが……おかしい?)
見上げて驚愕した。
(なんだ……!? あの、つき?)
満天の星空に、巨大なハート形の月が、桃色に輝いている!?
俺の記憶では……あれは月なんかじゃない……あれは!
「――ば……バー〇ヤン!?」
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