#17

 誤解は様々な問題を引き起こす。代表的なのは富士川の戦いにおける水鳥の話だろうか。


 夜、富士沼から一斉に飛び出した水鳥の羽音を源氏方の襲撃と誤認し、平氏の軍勢は総崩れになって退散したというもの。真偽がどうであれ、双方の勢いの差を印象付ける物語だ。


 今回誤解したのは第三者である。しかし、僕が赤っ恥をかかされたことを考えると、何故か維盛に共感出来そうな気がしてくる。


 委員長の誤解を解く時間は無かった。白渡の報告が終わってすぐにチャイムが鳴ったし、そもそも上級生に話しかける勇気が無い。話しかけたとして、実は自己紹介で嘘ついてましたとか、白渡はそこの女ですとか説明するのは恥ずかしくて嫌だ。


 でも誤解されてるのは白渡もだよな?むしろクズで知られる僕の名前を背負う分、あいつの方が不利益を負いかねない。そこまでして僕を辱めたかったのか。


 まぁ"白渡君"の仕事に関してはどうしようもない。僕に出来るのは、放課後即退出し、デートの約束を放棄することだけだ。


「さよならー」


 担任のやる気の無い挨拶を合図に廊下へダッシュ。田舎のバス通学者は何度も一刻を争う経験をしている。1本逃せば2時間は帰宅が遅れる...その恐怖を知っている以上、何にも構ってはいられない。


 机の間を駆け抜け、教室を出るまで後少しの所まで辿り着く。


「ぐぇ...」


 そのタイミングで後ろから何者かに襟と腕を掴まれた。首が潰れそうになり、死にかける。


「伊折君?そんなに慌ててどうしたの?」


「い...いや、やっぱ高校生なんだし、何も準備せずにお出掛けなんて恥ずかしいだろ...?だから下見とか...家で身嗜み整えたり...」


「家に帰ってからの時間で考えると、伊折君はお家デートをご所望だったんだね?丁度明日は休日だし、お泊りまでさせてくれるのかな?」


「あの...勘弁してください...」


 いつも通り笑顔の白渡と、くすくす笑うクラスメート達。まぁ、今回はさすがに、彼女がお怒りなことに気付く。

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