#8
黒瀬は可哀想だ。恐らく前世で文化財を破壊し尽くしたりしたのだろう。
都会で生まれたらしい彼女は、生まれてすぐ家族間の揉事で田舎の親戚の元に送られたそうだ。いつからか保護してくれていた親戚は"へんなひと"に影響を受け、彼女に何々の教えとやらを説くようになったらしい。居心地が悪くなったのだろうか、休日家にいるのは珍しく、しょっちゅう知人の家に遊びに行くようになった。
そんな面倒な環境で生きていた訳だが、何より、僕が幼馴染であったことが、彼女最大の不運だと言わざるを得ない。もっと包容力があったり、頼り甲斐があったり、容姿や能力が優れていたりする奴が幼馴染であれば少しは救われただろうに、とことん人間運に見放されている。
「黒瀬」
「...?」
飽きずに僕を見ていた黒瀬の目が少しだけ大きくなる。僕から声を掛けるのが珍しいからだろうか。
「高校は嫌なことばかりだ。腹が立ったら僕を殴るんだぞ」
「...一応聞くけど、マゾなの」
「違うな、愚痴を話されると僕の心が廃り、美少女ゲーム内にしか居場所を見つけられ無くなるからだ」
「...何それ」
別にリア充に憧れてプレイ動画を漁っていたとかそういう訳ではない。断じてない。
「まぁ恨み言の文章を作るなんて面倒なことしなくていいってことだ。黒瀬に悩み事があるのは分かっても、それを聞いて策を出せる程僕は頭良く無いからな」
「...そっか」
黒瀬は少し表情を緩めると、軽く手を突き出し、僕の腹にちょこんと触れさせる。
正直な所、朝から何か言おうとして誤魔化していると勘付いていた。長い付き合いだし、あれだけじっと見つめられてたら分かる。
でも、それを手助けしようとはしない。それが僕であって、彼女が不運だとした理由の一つでもあった。
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