#6

 テスト終了を告げるチャイムの音で、ようやく手を止める。


 数学のテストは全然時間が足りない。担当教員はクラス内の平均点30点を目指してテストを作っているそうだが、数学好きが集まる理数科のメンバーで3割なのに、僕が取れる点なんてたかが知れている。


 とりあえず全ての解答欄に何かを書き込めたのでもう考えないことにする。だから今日はもう帰ろう。休み明けから3科目もテストをやってもう疲れた。


「伊折君、ご飯を一緒に食べよう」


「僕は帰る」


「そんなこと言っても午後には部活があるよね?昨日は全然話せなかったから今日こそしっかりお話ししようよ」


 部活をサボろうとしたのを止められたのは仕方ないが、白渡はこれほど僕に執着する奴だったろうか。


「転校生なんだから初昼食ぐらい知らん奴と食えよ。知人のぼっちと昔話するのなんて別の機会でいいだろ」


「1年過ごしたクラス内に友達が出来ない君が人との付き合い方を語るとは驚きだね。本当は話したいこともあるだろうに」


 僕の許可を得ず椅子を机に寄せてくる白渡への説得は諦め、小さなコンビニ弁当を取り出す。


「改めて、久しぶり」


  軽い笑顔で僕に返事を催促する。


「...こんばんは」            

 

「おお、懐かしの新色節だ」


 白渡の顔を眺める。


 1年合わない間に少し大人びたのだろうか。中学生の頃の彼女の姿とは何処か違って見える。


「...じっと見るな」


「それは私のセリフなんだけど、ゴミでもついてるのかな?」


「そうだな、お前の顔からは私欲邪念下心とかあらゆる汚い思いを感じ取れる。だからここから去れ」


 適当に誤魔化す。


 それでも不敵に笑みを浮かべ続けるこいつは、やはり嫌な奴だ。

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