第3話 おらさ、秋波とか、わがんね

 翌日、家の前の常緑樹に朝露が目立っている頃、スズメがチュンチュン鳴いていた。え? あれから俺の同士である陰キャで、実は性別誤認させていたエルフ耳の美少女はどうしたって? あいつなら俺の隣で寝てるよ。


「……ぬぅ!」


 ガチで。

 朝、自室のベッドで目を覚ますと隣にレンの愛くるしい寝顔があった。


 近い近い……! しかも布団の中がレンの温もりもあっていつもより温かい。

 ぶっちゃけその日の朝は昨夜振った小雨の影響で凄く寒かったし、出たくねぇ。


 しかし――隣に居るエルフ耳の美少女との関係性を考えると、ここは気付かれない間に抜け出るべきだと理性は言い、本能はすでに脳裏でレンを襲っている。こいつ、この後でどうなろうとも覚えていろよ……!


 とりあえず理性が勝ったので、その日の俺は朝風呂に入ろうとした。

 ついでに今日の運動スケジュールに温水プールでのトレーニングを入れてっと。


 これで俺の邪心は劣情と共にさようならしてくれるだろう、サラダバー。


 浴場に向かい、熱いお風呂に入ろうとしたら。


「あ」

「あーいーあーいーあーい~!」


 レンの小母さんがすでに入っていた模様で、俺は全裸で小母さんも全裸。

 裸祭りの開催か!? いやありえねぇよ!!


「すみません小母さん、事故です!」

「大丈夫ですよ竜馬くん、私はもう上がりますから」

「あ、あ、あ……」


 俺が動揺しまくっていると、小母さんは湯船から上がり、脱衣所に向かった。

 小母さんのしなやかな後ろ姿に、俺の逸物は勃起率1000%になりそうだ!!


 シャワーで体を洗った後、先ほどまで小母さんが遣っていた湯船に足の先からつけた。家族以外の魅力的な異性との間接入浴は俺を興奮のるつぼに追いやり、朝の早い段階で風呂場から「ワァアアアアアアアアア!!」との奇声が上がって来たのはしょうがないことだった。


「クソウ、クソウ、嬉しいけど、なんという罪悪感、それだけで飯三杯はいけそうだ」


 俺はNTRものだっていけてしまうんだ! 二次元に限るけどな!


 ……でも、なんでレンのお父さんはあんな綺麗で優しそうな人を放っておいて、不倫したんだろう。あんまり知りたくはないが、少し気になる。


 風呂から上がり、脱衣所で丁寧に水気を拭ってからリビングに向かった。

 リビングは家の中でも一番大きな部屋で、ここは両親の仕事場でもある。


 と言っても部屋の造りはダイニングキッチン付きの普通の居間だけどな。


「あれ? 何をしているんですか?」


 キッチンには先ほどお風呂場で遭遇してしまったレンの小母さんが居た。

 手元を見るに、どうやら朝食を作ってくれているようだ。


「差し出がましいと思いましたけど、朝食を用意してたの」

「ありがとう御座います、昨日父と母から何て言われました?」

「お二人からは、当面の見通しが立つまで、この家でゆっくりしていってもいいと」


 ふぅーん、それは息子の俺から見ても寛大なことで。

 今回は相手が相手だったし、相手の事情が事情だったこともあるしな。


 今の俺に出来ることは、小母さん達に前を向いてもらうよう促すことだけだ。


「竜馬くんの家って凄いわね。ITベンチャーって聞かされてたから、てっきり機械だらけのご自宅なんだろうと思っていたのだけれど」


「家ですか? 家はITを使って第一次産業のオートマチック化を設計しているような会社なので、イメージと違ったって言うのはよく言われるかもしれないです」


 そう言うと、小母さんは微笑んでいた。


「……所で、俺の方からも一つ聞いていいですか?」

「なに?」

「小母さんや、レンの耳の形って特殊じゃないですか」


 曰く、エルフ耳。

 俺は二人の耳が気になって、今をいいことに小母さんに聞いてみたんだ。


「ああこれ? 珍しいわよね」


 と言い、小母さんは銀色の長い髪を片側にわけて、あえて耳を強調するようにさらけ出す。その仕草、俺的に100億点満点でした、ありがとうございました。


「竜馬くんはこの耳の形が凄い好きだって、あの子も言ってたけど」


 バ、バレてる。

 今までレンにエルフ耳を推しに推していたから、小母さんにまで伝わってるやん。


「でも、普通の人はこの耳を気持ち悪がるの。私も小さい頃にそれでちょっとしたいじめに遭ったりしたし、だからレンのアバターは別なものを採用させてもらってたりするのよね」


「そうだったんですか、知らなかった」


「だからね、竜馬くん」


「はい」


 小母さんの手元から美味しそうなビーフシチューの匂いが立ち込めると同時に。

 小母さんの目は先程の優しいものじゃなく、真剣そのものの目付きになっていた。


「レンが竜馬くんを好きなのは、あの子の本心だと思うの」

「ああ、俺もレンのことは好きですよ」

「……よかった」


 ……あ、でも。


「異性として、って意味じゃないですよ?」


 そこは誤解されてもしょうがないんだけどさ。

 念のために言うと、小母さんは少し残念そうな顔をしていた。


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