溜息と散歩
『せっかく先輩と再会できたのに結婚してるんだもんな~』
と
『はあ、どうして私がいいなと思った男性はいっつも売約済みなんだろ…』
部屋に戻ってからもそんなことを考えながら「はあ…」と溜息を吐く織姫に対し、
「おい、おデブ。腹へった」
と容赦がなかった。すると織姫は目を吊り上げて、
「ぽっちゃりだけどデブじゃない!」
と返し、しかしそれで気持ちが切り換えられたのか遅い昼食にしたのだった。
昼食後、見た通り部屋は既に片付いているので困ることはなかったが、パソコンに向かい仕事を始めた織姫に対して、
「ちょっとこの辺ぐるっと回ってくる」
とだけ言い残し、結人は部屋を出て行った。こういうのはいつものことなので織姫も心配はしていない。心配があるとすれば他の子とケンカでもしないかということくらいだ。
部屋を出て階段を降りた結人は、さっき挨拶に行った一号室の方にちらっと視線を向けた。しかしそれ以上何もするでもなく、本当にアパートの周りをぶらぶらし始めただけだった。
が、この辺りは思ったよりも人影もまばらで、犬を連れた高齢者や、宅配業者や、幼い子供を乗せた自転車に乗った母親らしき女性とすれ違った以外に人を見かけなかった。結人と同じ小学生くらいの子供の姿はまるでない。
実際、ここは子供のいる世帯が少なくて、それがいつもの光景なのだ。しばらく歩いたところに小さな児童公園があった。そこでようやく子供の姿を見付けたが、ベンチに座って携帯ゲームをしている低学年くらいの男の子二人だけだった。
結人は、小さな画面を見ながらちまちま操作するようなゲーム機が嫌いだった。リモコンを振り回して体を使って遊べるTVゲーム機はそれなりに楽しめたが、グロテスクな描写が多くとにかく出てくる敵を殺しまくるだけのゲームばかりやりたがるので、織姫が新しいソフトを買わず、今ではすっかり飽きてしまった。
彼は危険な少年である。決して大きいとは言えない体に、ぐつぐつとした、熱くて暗いものを煮え滾らせ、それの捌け口をいつも求めいているような存在だった。その危険性を織姫がどこまで理解してるかと言えば、正直言って心許ない。彼女は彼のことをただちょっと乱暴なところもあってケンカっ早いだけの、いわゆるガキ大将的な、男の子にありがちなものとしか認識してなかったのだ。
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