人間の形

京衛武百十

でもしか教師

 俺の名前は<犬童いぬどう光里みつり>。典型的な、

 <でもしか教師>

 だ。

『教師にでもなろうか』

『教師にしかなれない』

 という、消極的動機で仕方なく教師になったというタイプの教師を指す蔑称だな。

 でもまあ、確かに俺の場合は、

『取り敢えず教師にでもなっとこうか』

 的なそれで教師になっただけだから、言われても仕方ないとは自分でも思ってるが。

 もちろん子供も別に好きじゃない。

『煩くて邪魔なだけの<獣>なんか死ねばいいのに』

 と思ってたクチだ。

『従順で大人の言いなりになる子供だけ残して後は』

 ってな。

 だけど、実際に教師になって小学校に派遣されて否が応でも子供とその保護者に接しているうちに分かってきたことがある。

『裏表のある親の子供は裏表があるし、教師(と言うか自分より下だと見做した相手)を舐めてる親の子供は教師を舐めてる』

 ということだ。『子は親の鏡』とはよく言われるが、なるほど昔の人間ももうその時点で気付いてたんだなとは思ったよ。なのに、現代人はまだそれを理解してないわけで、

『なんだ。昔の人間より今の人間の方が利口ってわけでもないんだな』

 とも実感させられた。

『現代知識を持って文明の遅れた異世界に行って、現代知識で無双する』

 ってのはあくまでフィクションだから成り立つんだなと思わされた。

 だからそういうのはあくまでフィクションとして楽しめばいいんだってのが俺の意見だ。

 同時に、

『自分の態度が自分に返ってくる』

 ってのも学んだよ。生徒を舐めてかかってると、どうにかして俺の弱みを握って上に立とうとする奴も出てくるってな。

 教師を始めて五年くらいの間はいろいろ振り回されてきたが、そのことに気付いて生徒を舐めないようにしたら、生徒の方も俺を舐めてこなくなった。隙が見えなくなったからだろう。

 子供にも、相手を揺さぶって動揺させてマウントを取ろうとするのが確かにいる。親がそうしてるのを傍で見てきたからだろう。そんなのを相手に感情的になったら負けだ。

 うちの学校にも、生徒を威圧して従わせようとするタイプの教師はいるが、そういうのに対しては、表面上従ってるフリをして裏では舌を出してるのがほとんどだな。生徒の様子を見てれば分かる。尊敬も信頼もしてないんだ。

『いい子のフリをしてればいいだけなんだからチョロいよな~w』

 と思ってるのが分かる。

 それが分かるのなら、ちゃんと自分に取り込んでいけばいい。それが『成長する』ってことだろう?

 俺はただ生徒を人間として扱うだけだ。生徒は<獣>じゃない。生徒が獣だっていうならその親も獣だ。ちょっと体裁を取り繕うのが巧いだけのな。


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