ぼくと私のスターライト

一澄けい

プロローグ

私は、きっと忘れない。

貴方と過ごしたあの日々を。貴方に、希望を貰ったあの日のことを。

泣きそうな顔で、私に願いを託した貴方のことを。

だから、ね。


「春海」


私は、きっと私しか知らない少女の名前を囁いた。そして、先程届いた見本誌の表紙を、そっと手に取る。

『Starlight』。シンプルな装丁に、その単調なタイトルがよく映えるその本を、私は宝物を扱うみたいに、優しく抱き締めた。


「やっと果たせたよ。貴方との約束を」


ああ、貴方は喜んでくれるかな。喜んで、くれているといいな。

だってこれは、貴方を忘れないための、約束の物語なんだから。


私は、抱き締めていた本を机の上に置くと、ペラ、とそのページを捲る。そうすれば、貴方と出会った時のことは、まるで昨日のことのように思い出せた。

ふふ、と懐かしさから、思わず笑みを零す。


そうだ、あれは—

貴方と出会ったのは、なんてことない穏やかな春の日のことだった。

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