エピローグ
んっ......あれ?ここは、どこ?
目を開けると、見た事も無い部屋に私は立っていた。沢山ある透明の板の中に1匹ずつ動物が入っている。
辺りを見回すと、少し離れたところに男性が立っており、私の近くに背を向けた少女とその母親らしき人物が楽しそうに話している。
女の子は私より背が低い?誰だろ......んっ?
体を動かそうとしても全く動かない。それに視界が歪んで......
......はっ!
気がつくと、目の前にいた親子は一つのガラスケースの前に集まっていた。どうやら男性は少女のお父さんだったらしい。
「お父さんお父さん!私、この子が良い!ふっくらしてて可愛い!!ねぇ、お母さん!」
少女が両親を交互に見て楽しそうに話しかけている。
何をしているんだろ。モストハザード領にこんな店あったっけ?
記憶を遡ってもそれらしき建物は思いつかない。と言うより記憶が不明瞭になっている。
あれ?私は何でこんな所に?
話を少し聞いていると、どうやら目の前のガラスケースに入れられた子犬を購入して、ペットにするらしい。あの家族の体が邪魔をしてよく見えないけど、茶色の毛並みで鼻や口周りが黒くなっている犬だ。
あの犬なんて言う品種なんだろう?
「お父さん!一華!この子の名前!一華が決める!」
犬の事を考えていると、急に小さい少女が何度も跳ねて男性に抗議を始めた。
それにしても小さいなあの子。......イチカだっけ?ティニーより小さいかな?あれ?イチカ?どっかで聞いた様な......
何かを思い出せそうな引っ掛かりを覚え、後少しの所で急にイチカと名乗った少女がこちらを向いた。
「!?何?......!?」
「ん〜、犬の名前ー。犬の名前ー。茶色の名前ー......あっ!そうだ!」
どうやら私に気付いたのでは無く、先程言っていた名前を決めかねていたらしい。そんなイチカが急に私に向かって走ってきた。
え!?どうしよう!動けないのに!?
焦っていると嬉しそうな顔で走っているイチカが私の体をすり抜けて後ろに消えていった。
「!?!?」
驚いて振り向こうとすると、また意識が途切れて視界が歪んだ。
目を開けると、そこはまた見た事無い部屋だった。先程のイチカは布団で寝ているらしい。
「ーーー!ーーーー!」
「......んっ、ふぁあ......はーーい」
声になってない音が聞こえて来たと思ったら、まだ眠たそうなイチカが目を擦りながら布団から顔を出した。
「テラーどこー?」
イチカが何かの名前を呼びながら周囲を見渡している。あれ?テラ?
「んー、あっ!いた!本当、なんでいつも足元でで寝てるの?テラー起きてー朝だよー!」
テラと呼ばれた茶色の犬は、イチカに起こされゆっくりと起き上がった。
テラってテラだよね?私の知ってるテラは狐だし。?
「あっ、そうだテラ!私はね今日は学校なの!私が居なくても良い子でお留守番してるんだよ?」
イチカがベットから降りてからテラを担ぎ、何か約束事をしている。イチカが起きた事から今は朝だと思うけど、窓はカーテンがかかっており、外の様子は見えない。
学校?学園じゃ無くて?......いや、学校だったっけ。
先程から違和感はあるけど知らない風景では無く、何処かで見たことある様なそんな不思議な感覚に陥っている。
私が悩んでいると、支度を終えたらしいイチカが扉を開けて外に飛び出していった。
「......私も行けるのかな?......あっ、動ける」
動ける事に気付き、私もイチカの後を追い扉の先へと進む。
扉の先は、同じ形の机や椅子が規則的に並べられている少し広い部屋に繋がっていた。
家ってこんな感じだっけ?
周りを見渡しながら考えていると、イチカと同年代と思われる背丈の子供達が、楽しそうに話をしている。何故か、どの子も曇った様に顔は良く見えない。
「イチカは何処だろ」
疑問に思う事は色々あるけど取り敢えずイチカを探して部屋を散策する。
と、部屋の窓側で1番角の席にイチカが座っていた。イチカの周りには、2人の女の子が机を囲って話している。
誰だろ?
近づこうとした瞬間。私の体は動かなくなり、視界は歪み、意識は現実へと引き戻された。
「(唸されてたけどよ、大丈夫か?)」
「(......あっうん。大丈夫。ありがとうテラ)」
何だったんだろう。思い返そうとしても、靄がかかった様な不思議な感覚で思い返す事が出来ない。
......明日、モストハザード領を出発するんだからしっかり休まないと。
何か大切なモノを見た様な、大切な何かを知った様な。記憶の無い夢に思いを馳せながら私は、瞼をゆっくり閉じた。
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