無機質な指輪と僕の運命

御厨カイト

無機質な指輪と僕の運命


「どうもこんばんわー。オリビアさーん、来ましたよー。」


僕は行き慣れた工房の暖簾をくぐりながら、奥に向かってそう叫ぶ。

すると少しして、多分作業中だったのだろう、頬に煤を付けた状態のオリビアさんが顔を出す。

……相変わらず煤を付けていても美人ということが分かる美貌だ。


「うん?あぁ、君か、待っていたよ。」


「僕の武器、ちゃんと直りましたか?」


「おいおい、それは一体誰に言っているんだい?この名職人の私にはその質問は愚問だよ?」


「アハハ、そうでしたね。すいません。」


「うむ、分かればよいのだよ。」


「……ぷっ、あははっ!」


「ふふふっ!」


何度も繰り返されたそのやり取りに、僕たちはいつも通り笑みを零す。


「……よし、それじゃあ、ちょっとそこまで待っておいてくれ。武器を持ってくる。」


「はい、分かりました。」


そうして、オリビアさんは工房の奥にまた引っ込む。

が、すぐに戻ってきた。


「ほいよ、これが依頼された君の銃だ。ちゃんと直っているか確かめてくれ。」


そう言いながら、彼女は手に持った銃を渡してくれる。


「あっ、ありがとうございます。」


「不具合があったらちゃんと言ってくれ。まぁ、私に限ってそんなことは無いと思うがな。」


「ふふっ、分かりました。」


僕は微笑みながら、自分の愛銃のコンディションを確かめる。


……これは凄い。

少し歪んで回しにくくなっていたシリンダーも軽やかに回るし、先が少し曲がっていた銃身もきちんと真っすぐになっている。

まるで新品みたいだ……。



「……これは、凄いですね!まるで新品のようです。」


「そうだろそうだろ!あ、グリップの部分も古くなっていたから付け替えておいたぜ。それはサービスだ。」


「え、いいんですか?」


「いいんだよ。いつも私の所を贔屓にしてくれるお礼さ。」


「ありがとうございます!」


「こちらこそ、いつも店の周りを守ってくれるお礼ってもんさ。」


「……あっ、気づいていたんですね。」


「そりゃあそうだろ。……こんなバケモンだらけの世界になったというのに、自分の店だけ被害が無いっていうのはおかしな話だからな。」


「……なるほど。」


「それにいかにあのバケモノたちがヤバいかどうかぐらいは私でも知っているからな。そんなバケモノたちから守ってくれているんだから何かお礼をしないと罰が当たるってもんだ。」


彼女はニカッと綺麗な歯をのぞかせながら、そう言う。


「……でも、そういったバケモノたちを倒すのが僕のお仕事ですから、そこまでしていただかなくても。」


「ふぅ、そんなに謙遜しなくてもいい。君のおかげで私はここで武器を作り続けることが出来るんだ。このお礼は私がしたいからするんだよ。」


「なるほど……、それじゃあ有難くいただきます。」


「うん、そうしてくれ。」


そうして僕は腰のホルダーに銃を仕舞う。


「いやー、今日はどうもありがとうございました。と言ってもまた来ると思いますのでよろしくお願いします。」


「うん、分かった。楽しみにしているよ。……あ、そうだ!君に渡すのを忘れていた。」


「?」


「ちょ、ちょっと待っていてくれ。」


「はい分かりました……?」


首を傾げたままの僕を置いてけぼりにして、オリビアさんは裏の工房に走る。

そして、直ぐに戻ってきた。


その手には小さな箱を持っている。



「オリビアさん?その箱は何ですか?」


「ふっふっふっ、これはな……、指輪だ。」


「指輪?」


「そう、今回ので余った資材を使って作ってみたんだ。あぁ、何か深い意味があるわけじゃない。君に対する感謝の代物だよ。」


「感謝って、さっき僕貰いましたよ?」


「あれは私の店を守ってくれている奴だろ?これは……、私の命を救ってくれたお礼だよ。」


「あっ」


「君と私が出会うきっかけにもなったあれさ。あの恩を私は返せてなかったからね。だからこれはあの時のお礼という訳さ。」


「そんなの……、よかったのに。」


「私がよくないんだよ。あの時、君に救われていなかったら、今頃私はあのバケモノの胃の中だったからね。」


「確かに。」


「だろう?だから今私が思う存分武器を作れているのは君のおかげというわけさ。本当にありがとう。」


「いえ、こちらもそう言っていただけて嬉しいです。助けた甲斐がありました。」


「ハハッ、流石一流のハンターは謙虚だね。……そう言うところに惹かれたんだが……。」


「何か言いました?」


「あ、いや、何でもない。あっ、そうだ、実はこの指輪は私とお揃いなんだが、この指輪を君に付けてもらいたい。」


「ほ、ほう。」


「まぁ、何だろう、これからもよろしくという意味合いもかけてな。」


「なるほど。」


「どの指につけるかは……、君が決めてくれ?」



……おっと、これは……。

試されているのかな……?


流石に僕でも指輪が持つ意味ぐらいは知っている。


だけど……


そんなことを考えながら僕は指輪を手に取る。


そして、どうしようかとワタワタと悩んでいるところを見て、オリビアさんは妖艶に微笑む。





僕はその顔を見て、より一層冷や汗を流すのだった。







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無機質な指輪と僕の運命 御厨カイト @mikuriya777

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