第18話

「そういえば、雛瀬くんって歳いくつ?」


 ホテルから出て駅まで歩いて向かう道中、相良さんに聞かれた。


「28です」


「嘘」


 相良さんの足が止まる。無防備に口を開けた顔が面白くて、ちょっと笑ってしまいそうになる。


「……ほんとに?」


「はい。もうアラサーですよ」


「……就活生の子かと思ってた」


 ちょっとそれ、失礼じゃない? と僕は思う。それが顔に出ていたのか、相良さんが手を振って弁解する。


「雛瀬くん童顔だから。まだ20歳ちょっとかなって思って……なんなら、制服着せたら高校生にも見えるし」


 僕の事からかってる? そんなに見た目幼いかな。自分でも不安になってきた。


「相良さんは自分のことおじさんだっていいまさけど、何歳なんですか」


 すかさず、反撃してみた。相良さんは、ぽりぽりとこめかみをかく。


「今年で35……近々アラフォーだよ」


「う、そ……ほんとですか?」


 全然見えない。所作が大人っぽいなと思ったけど、自分よりひとつかふたつ歳上だと思ってた。35歳って、おじさんなのかな。その辺のことはわからないけど。


 そんな話をしているうちに、もう駅の改札口の前だ。朝の通勤客の邪魔にならないように、隅で別れを告げる。


「じゃあ雛瀬くん、また」


「はい」


 ひらひらと手を振って、相良さんは改札内に入っていく。僕は相良さんの姿が見えなくなってから、改札を通った。行き先が同じ方向だったりしたら、気まずいし。昨日よりも、少し弾んだ自分の胸の中。新しい何かが始まる。そんな予感を胸に帰路についた。

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