第13話

「吸って、吐いて。そう上手だ」


「ふう……はぁ」


 相良さんに背中をさすられて、なんとか呼吸が落ち着いた。息ができたのはよかったけど、今のってーー。


「ごめん。使うつもりは無かったんだけど、雛瀬くんが辛そうだったから。それと……一目見たときからSubだって気づいてた。急にCommand出してびっくりしたよね」


 今の、Commandだったんだ。初めての感覚に体の中がざわめいている。僕はわかってたよ。相良さんがDomだってこと。僕と、なにもかもかけ離れてるから。


「大丈夫です。危うく窒息しそうだったから……助けてくれてありがとうございます」


 深々と頭を下げると、そっと肩に手を乗せられた。


「ほんとに礼儀正しいんだね。でも、俺の前ではもっと気を抜いて話して欲しいな」


 朗らかな笑顔。あたたかい手のひら。胸が、ジンと詰まる。体の内側から熱が溢れてきそうだ。


「わ、かりました」


 口が回らなくて舌足らずになってしまう。


「……もう、休もうか」


「そうですね……」


 セミダブルのベッドに2人で横になる。お互いに背中を向けあって。30センチほどの距離があいた。触れてはいけない境界線のようだと、僕は思った。案の定その夜は熟睡出来なくて。うとうとしては、目が覚めて。またこっくりこっくり船を漕ぎ出したら、目が覚めて。その繰り返しだった。相良さんは、どうだったんだろう。ちゃんと眠れたかな。僕が邪魔になって眠れなかったらどうしよう。本当はバーを出たあと1人でホテルに泊まれたのに。僕が付いてきたから、こんなことになって。面倒くさいやつだと思われてないだろうか。そんな不安だけが胸にこびり付いて離れなかった。

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