第23話 「義」と「氏」

 というわけで、足利一族(足利氏と新田氏)について、「義」のつく名と「氏」のつく名を調べてみました。

 今回は名まえがいっぱい出て来ますが、「何をやったひとか」ということはおいといて、名まえだけに注目しています。私だって「何をやったひとか」はまで調べていないひとが多いです。

 だれの名まえもみんなビューティフルということで。


 足利一族の男子は最初のころはみんな「義」です。

 足利氏の本家が、義国よしくに義康よしやす義兼よしかね義氏よしうじと続き、義氏から通字が「氏」に切り替わって息子が泰氏やすうじ、泰氏の子が頼氏よりうじです。


 「通字の切り替わり」というのが起こったんですね。


 清和源氏の三代め、みなもとの頼光よりみつ(通称「らいこう」)から、その子孫が河内源氏、摂津源氏、大和源氏と分かれますが、その三系統で共通の通字は「頼」でした。

 河内源氏の源頼義よりよしの子が、親から「頼」ではなく「義」を継いで、義家よしいえ(八幡太郎)、義光よしみつ新羅しんら三郎、武田氏などの祖)の世代に「義」に切り替わりました。

 それと同じような変化です。

 ちなみに、頼光の父満仲みつなか多田満仲ただのまんじゅうとも)の世代は兄弟の名が「満○」で揃っています。同世代で共通の字を使うという仕組みでした。父親は経基つねもとなので、「満」は父から子へと受け継いだ字ではありません。

 もともと「頼」も満仲の下の世代で共通の字だったのが、そのまま「通字」として子孫にまで伝えられたということのようです。


 兄弟や分家の男子を見ても、足利義兼の兄義清よしきよ(兄だけど木曽義仲に味方したために本家を継げなかった)や、義兼の息子で義氏の兄義純よしずみ(足利氏出身で新田系岩松氏と足利系畠山はたけやま氏の祖になったというすごい人物)も「義」です。

 義清の子孫が室町時代に管領家になる細川氏です。細川氏にも「氏」のつく人物は登場しますが、「義」のつく人物が多い。細川管領家の系統は「足利義清‐広沢ひろさわ義実よしざね‐細川義季よしすえ俊氏としうじ公頼きみより頼春よりはる頼之よりゆき頼元よりもと」と、一世代だけ「氏」が入りますが、「義」から「頼」へと移り、「頼元」からまた「切り替わり」を起こして、室町幕府管領家として安定してからは「元」が通字になります。細川勝元かつもと政元まさもとが有名です。

 細川氏とともに義清の子孫である仁木にっき氏は「義」の入った名が続き、室町時代に「義」が室町将軍の通字として定着すると「義」がつかなくなります。


 足利義氏の孫の世代になると、本家のほか、分家の吉良きら氏、今川いまがわ氏、斯波しば氏にも「氏」のつく名を持つ男性が多数います。

 しかし、吉良義継よしつぐや渋川義顕よしあきは「義」の字がついています。吉良氏のばあい、長氏ながうじ満氏みつうじと「氏」が続きますが、満氏の子は貞義さだよしで「義」に戻り、はるかな子孫の吉良上野介こうずけのすけ義央よしなかまで「義」……。

 よし!

 ……とか言ってるばあいではなく。

 今川氏は吉良氏の分家で、「吉良長氏‐今川国氏くにうじ基氏もとうじ」まで「氏」が続きますが、そのあとは「氏」がつかなくなり、通字も一定しません。戦国大名になった氏親うじちかの代から「氏」が復活して通字になります。

 このへんは、「先祖返り」したというより、関東公方くぼう系統の通字「氏」を意識したのだろうな。

 なお、氏親の父の義忠よしただ、氏親の息子の義元よしもとの「義」はそれぞれ将軍からの偏諱へんきと考えられています。

 しかし。

 今川氏のほうがもともと吉良氏の分家だったんだね。


 新田氏のほうは、本家が義国‐義重よししげ義兼よしかね義房よしふさ政義まさよしまでが「義」、政義の代にいろいろあって、息子が政氏まさうじとなり、基氏もとうじ朝氏ともうじと続きます。

 ところで。

 新田義重の子が新田義兼、足利義康の子が足利義兼。

 二人とも源義国の孫。

 なんでいとこどうしでおんなじ名まえにするんですか!

 ややこしい。

 それに、なんか萌えBLの設定みたいな……。


 新田政氏の世代と政氏の次の世代は「氏」がつく名まえが多いのですが、そのさらに次の世代になると「氏」のつかない名まえが多くなってしまいます。

 また、新田氏の分家の里見さとみ氏や山名やまな氏は基本的に「義」を通字として使い続けます。


 新田氏系の「氏」のつく名まえについては、じつは次の展開があるんですけど、それはまた後で、ということにして。

 とりあえず。


 (1)足利一族(足利氏と新田氏)では、足利義氏以後、「氏」が本家の通字になった。けれども分家には「義」を使い続ける系統もあった。

 (2)足利氏・新田氏とも、一時期は分家にまで「氏」のつく名が広がったが、分家の系統では「氏」は二‐三世代で使われなくなる。ちなみに新田本家も三世代で使わなくなっている。


 「氏」が使われなくなる理由はよくわからないのだけど。

 「義」はどちらかというと分家が使い続けた通字で。

 やっぱり、「「義」のつく名まえはステイタスが高い、清和源氏本来の通字だから」というのは無理じゃないかなぁ?

 たとえ本人がその意図だったとしても、「分家がいっぱい使っている名まえ」に揃えた、「分家並みの名まえ」……と思われてしまう、と思うんだけど……。

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