第14話 摂家将軍の「将軍らしさ」とは?

 鎌倉幕府で、源氏将軍家の次の将軍家は「摂家せっけ将軍」と呼ばれる家系です。

 摂家というのは、藤原氏のなかでも摂政・関白を出せる最高の家柄です。

 藤原氏は「娘を天皇に嫁がせ、天皇の母方の祖父になることで権力を握った」と言われますが、それはだいたい院政の始まるころまでです。それ以後は摂政・関白になれる家柄が固定されてきます。それ以外の家から最も地位の高いお(皇后、中宮ちゅうぐうなど)が出ても、その父親は摂政・関白にはなれなくなり、摂政・関白は固定された家柄しか出せなくなるのです。

 この家系を「摂家」といいます。

 まだ承久の乱の前、朝廷の実力者で親鎌倉幕府の立場だった九条くじょう道家みちいえの子が鎌倉に送られました。この男子が元服げんぷくして「頼経」と名るのようになり、承久の乱後に正式に将軍になります。

 九条家は摂家なので、摂家将軍というわけです。


 九条頼経は、摂家という、臣下の家柄としては最高のステイタスを持っているとともに、父方・母方の両方で源義朝よしともの娘の血を引いています。

 近代より前には、日本の「氏」は男系で伝えられることになっているので、「源義朝の娘の血筋」であっても頼経は源氏にはなりません。九条家は藤原氏の一族ですから、頼経も藤原氏です。

 ただ、同時に、日本では「氏の名(せい)は天皇が与える」という制度があります。したがって、藤原氏の一族に生まれても、天皇から「これからは源の姓を名のるように」と命令があれば、源氏になれる。また、非常に幼いころならば姓を変えていい(つまりその子が属する「氏」を変えていい)という制度もあったようです。

 こういう制度や慣行を利用して、頼経を源姓にして「源頼経みなもとのよりつね」にしようという動きがありました。

 しかし、それは結果的に実現せず、頼経は藤原氏のままでした。


 藤原氏と縁の深い春日大社の神様が許してくださらなかったから、ということですけど。

 どうなんでしょうねぇ?


 成長した頼経は、御家人の信望を集めて北条氏の「リーダーシップ」を損なうことになるのでは、と危惧した執権北条経時つねときに将軍の地位を追われます。

 経時ってだれ……?

 「名執権」、そして、執権を辞した後も本家の当主(得宗とくそう)として権力を握り続けた北条時頼ときよりのお兄さんです。

 やはり本家の当主ですので、経時は「得宗」にあたります。しかし、早くに亡くなってしまったので、北条本家の当主は弟の時頼が継ぐことになり、以後、時頼の子孫が「得宗」ということになります。

 鎌倉幕府が存在している期間に、北条氏の「得宗」の地位が兄弟で継承されたのはこのときだけです。混乱を後の時代に残さないためか、経時の男子は出家して(させられて?)、家を継いでいません。


 その経時は九条頼経を将軍の地位から下ろしたわけですが、その処置は中途半端です。

 経時は、頼経にかえて、息子の九条頼嗣よりつぐを将軍にします。

 ところで、当時の制度では「職」は家に属します。

 したがって、その「職」に現に任じられている人ではなく、その家の当主がその家の「職」について優先権を持ちます。

 天皇ではなく、そのときの天皇が属する家の当主(天皇の父・祖父など)が天皇の「職」を行うのが院政です。天皇の父・祖父などにあたる当主が不在のとき、または「自分は院政はやらない」と決めたときだけ天皇が自ら天皇の「職」を遂行する(天皇親政)ということになります。

 また、北条氏の「執権としての職」を行うのが、執権当人ではなく得宗である(もちろん得宗が執権に就任していれば得宗=執権でもあるわけですが)のも同じ理由です。

 ということは。

 九条頼経を辞めさせて息子にその「職」を継がせても、頼経の「将軍家の当主」としての地位は変わりません。

 だから、頼経は「大殿」(江戸時代で言う「大御所」)としてなおも影響力をふるい続けます。


 そのあと、得宗家が率いる鎌倉幕府が将軍を辞めさせてその男子に地位を継がせるばあいには、辞めさせた将軍を京都に送還しています。鎌倉にとどめておくとやはり「大殿」として権力を握ってしまうことを恐れたのです。


 鎌倉幕府にとって、摂家将軍は「摂家出身」だから「トップ」としての価値があったのか?

 それとも「頼朝と血縁がある」から価値があったのか?

 たぶん両方なんでしょうけど、幕府にとっては、やっぱり「摂家出身」だけでは不十分で、「頼朝の後継者」として演出することが必要だったようです。

 そのことにはまたあとで触れたいと思います。

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