管理者のお仕事 グルメ編3 ~冒険者ギルド食堂よ、永遠に!~

出っぱなし

食材調達

『グリフォン』


 上半身が猛禽類、下半身が獅子というキメラ型の幻獣。

 非常に勇猛な肉食獣で特に馬を好むが雌馬は犯し、鷲の上半身、馬の下半身の魔獣ヒッポグリフを産ませる。


 最強の獣であるライオンと、最強の鳥類である鷲を組み合わせていることから、大変に縁起のいい動物とされ、古くは貴族や騎士の紋章として良く用いられた。


☆☆☆


「……覚悟は良いか、オーズよ?」


 冒険者ギルドマスター、エマニュエル・セニエ、小柄な老人だが『魔導の巨人』と畏怖されるフランボワーズ王国内最強の魔道士である。

 若かりし頃は、世界で最も危険な街、暗黒大陸にある城塞都市『マルザワード』でその名を轟かせ、聖騎士幹部『七聖剣』にですら一目置かれていた。

 

「ああ、始めから覚悟は決まっている。オレは今日、あんたを超える」


 オレは本気の魔導の巨人を前に気圧されつつも地を踏みしめた。

 

 魔導の巨人、か。

 誰が名付けたのか、この小柄な老人に対して何とも皮肉な二つ名である。

 だが、その異名は的確すぎる。


 この国の人間に比べて大柄な民族であるオレに比べると、この老人は小人のように小さい。

 しかし、本気の魔力を迸らせると逆にオレが見上げるほどの巨人に感じる。


 オレは世界の存亡をかけた『冬将軍』を戦い、尊敬する義兄の死すら乗り越えた。

 闇に飲み込まれそうになるほどの窮地を『希望の光』に救われ、暗黒闘気を完全に体得することが出来た。(本編第三章参照)


「うぉおおおお! 狂戦士化!」


 オレは暗黒闘気を纏った。

 今のオレは、闇に飲み込まれて暴れ狂うことはない。

 あの未曾有の亡者の侵攻を凌ぎ、一人前の誇り高き海の戦士になれたのだ。


 それでも、オレは戦いは嫌いだ。

 傷つけ合うことのない世界ならばオレは戦うことはないだろう。

 食べるために狩猟はするだろうが、な。

 しかし、男には戦わなければならない時がある。

 

 大切な誰かを守るため、名誉を守るため、生き延びるため。

 理由は様々だろう。


 今のオレにとっては、ただひとつ。

 目の前の偉大な男に認められるためだ。

 そして、オレは彼女に……


「ほう? この冬の間に一皮も二皮も剥けたな。だが、まだまだワシは超えられんぞ! はぁああああ!」


 魔導の巨人は、目をカッと見開き魔導砲を放ってきた。


「うぉおおおお!」


 オレもまた槍を持ち、立ち向かった。


☆☆☆


「おかえりなさい、ドミニクさん! ……あら? ユーリくんだけですか? オーズさんとおじいちゃんは?」


 おれと小人のように小さいハーフリングとかいう種族のドミニクを見て、マリーは目を瞬かせて首を傾げた。

 

「……ん、おお。あいつら野暮用があるってよ。ちっと帰ってくるのが遅くなるってよ」


 ドミニクはいつもの口八丁とは違って歯切れが悪い。

 マリーは怪訝そうに眉をひそめたが、何かを察してため息をついた。


「……はぁ。どうせ、またおじいちゃんが無茶なことをさせているのでしょう?」

「お、おお。そうみてえだ」

「まったくもう! 世界を守るために戦ってきて、長旅して疲れているオーズさんに……え? 何ですか、ユーリくん?」


 長々と文句をいうマリーに痺れを切らし、おれは一吠えして首に掛けているカバンに注意を向けさせた。

 

 マリーはカバンから一枚の手紙を取り出した。

 おれの相棒のオーズから預かってきた大事なものだ。


「えっと……『いつものやつを作って待っていてくれ』……って」


 マリーは手紙を読み終えると、表に歩いて出ていった。


 表にはおれが船着場から運んできた荷車、その上にはこの国の人間の子供ほどの大きさの『グリフォンの卵』が乗っていた。

 ここに戻ってくる前におれと相棒がグリフォンの巣に行って手に入れてきた。


 グリフォンは天空の王者と呼ばれるほど危険な魔獣だ。

 しかし、今の相棒の前ではただの狩りの獲物だ。

 今回は威圧して無精卵だけいただいて帰ってきたが、倒すことはしなかった。

 狩りの原則、必要以上に獲物を狩らないということだ。


「オーズさんがグリフォンの卵を……わかりました! 私も全力で作ります!」


 マリーは、不器用で簡潔すぎるオーズの手紙の意味が分かったようだ。

 グリフォンの卵をドミニクに厨房に運ばせて料理に取り掛かった。


 やれやれ、世話がやける二人だぜ。

 これでおれも役目を終えて、のんびりといつものクッションの上で丸くなった。

 

 相棒、お前なら勝てる!

 凱旋を待ってるぜ!

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