それいけ! ヤ組。
朝姫 夢
第1話 異形のあやかし
「
「任せてくだ、さいっ!」
ゲームセンターにあるガンシューティングゲーム。そのコントローラーのような大き目の銃を両手に持った金髪の青年が、青い屋根の上から叫ぶ。下を覗き込んだ一瞬、家から漏れ出た光にピアスが二つ、キラリと光った。
その彼が目を向けた先には、鞘に納まったままの日本刀を持ったメガネの青年。先ほどの金髪の青年とは打って変わって黒髪の真面目そうなその表情も、今は瞳が鋭く前方へと向けられている。
と。彼が目にもとまらぬ速さで刀を振りぬいた瞬間、その後ろには真っ二つになった『何か』が、鈍い音を立てて地面へと落ちる。遠目から見ると、腹の辺りで真っ二つになった人間のように見えるが。実際には体中に様々な人物の顔が張り付いている。その表情は一様に、何かに激怒しているようにも見えて。
ソレは人のような形をしておきながら、明らかに人間とは違う『
「あー、終わった終わったー」
屋根の上にいた金髪の青年が、黒髪の青年の近くに降り立つ。屋根の上から、一足飛びに。
明らかに、人間が持ち得る能力を超えていた。
だが黒髪の青年はそのことを一切気にせず、彼は先ほど自分が切り捨てた『異形』へと目を向けていた。
「今回は『怒り』の集合体だったようですね」
「この間の人身事故の影響だろー? 朝の忙しい時間帯になんてことしてくれたんだって、そこら中の人間が普段以上に怒りを爆発させたんだろ」
「憤怒という程ではなかったんでしょうね。おかげで助かりましたが」
「あれはやだなぁ。デカいしパワーあるし。マジもんの馬鹿力じゃん」
どこか
と、そこへ。明らかに第三者と思われる人物から声がかけられる。
「お~、さっすがヤ
「その呼び方やめろって!」
「え~? だって二人とも高校生だろー? 普段だって組み分けされてんだからいーじゃん」
「
「オッサンって言うな!」
金髪の青年にオッサン呼ばわりされた男は、スキンヘッドに
そんなちぐはぐな二人が軽口をたたき合っている間に、先ほど
「っつーか、終わったんだから帰してくんねー?」
「待て待て。すぐに終わるから」
「この間も調べていましたけど、こんな短期間に何か変化することなんてありますか?」
「逆だ逆。最近『異形』の発見報告が増えてるから、もしかしたら変化があるかもしれないって上が睨んで調査命令出てるんだよ」
「え? なに? いつもの『あやかし』さんたちからの報告?」
「それ以外からの報告が上がってきたら、俺はそいつをスカウトしに行くね」
「『
「『麒麟』に」
彼らの言う『麒麟』とは、日本全国に拠点を持つ秘密組織。正式名称は『
『麒麟の蹄』の主な活動内容は、日本各地の『あやかし』の分布調査と実態の把握、保護や交渉など多岐にわたるが、何よりも重要視されるのはそこではない。
設立時より連綿と続く彼らの一番の活動目的とは、人や『あやかし』に害をなす『異形のあやかし』の退治および発生原因の調査究明。
日本全国に存在している『あやかし』の中には、人や他の『あやかし』に害をなすものがいないわけではない。だがそれはその『あやかし』の存在理由でもあることなので、不自然ではないのだ。
だが『異形のあやかし』は違う。『あやかし』という
そして何より、その『異形のあやかし』には存在意義がない。意味もなくただ醜悪な見た目を持って生まれ、名前も付けられないまま他者を傷つけ不幸にするだけの存在。だからこそ、ソレらを放置するわけにはいかないのだ。
「
「おー、了解。じゃあ戻るぞー?」
スキンヘッドの
「そんじゃ。"
「"解"」
だがそれを誰一人訝しむこともなく、むしろどこかホッとした表情をしている。
「やーっと帰ってきたー」
「異空間は便利ですけれど、解除されると本当に僕たち以外の生物が存在していない場所なんだと、再認識しますね」
「なー。オレいまだに仕組み分かんねーし、不思議だもん」
「僕たちはそれでいいんですよ。役割が違いますから」
「だな!」
金髪ピアスの
『異空間』と『結界』。『麒麟の蹄』のメンバーたちの非戦闘員の役割の一つが、この二つを駆使して戦闘員が『異形』と戦いやすくサポートするというものだ。今回彼らが使ったのは、その二つの内の『異空間』。指定した範囲をトレースして作り出した空間に、特定の者達だけを移動させる能力。それは一人では扱えず、最低でも三人は必要とされる。
ちなみに『異空間』は最低三人だが『結界』は必ず六人必要となるので、どちらを使用するかは『異形』の種類や状況だけでなく、その時に動けるメンバーに左右されることもあるのだ。
「今回はこれでよかったけど、正直毎回六人いて欲しいよな」
「それは同感です。万が一、ということを常に考えておかなければ、万全とは言えませんからね」
「わーるかったって! お詫びに送ってくから! な?」
「未成年がこんな時間に外を歩いているなんて非常識ですから、送迎は当然では?」
「
「
「ハイ、スミマセンデシタ……。一応俺からも、ちゃんとあいつらには言っておくから。な?」
「おーおー。オッサンが押されてる押されてる」
「オッサンって言うな!! あと
「やーっだね!」
べーっと舌を出す
ちなみに余談だが、
「あーもー! あ、そうだ。ちょっと待て。えーっと……
「よし、終わり。じゃあ行くかー」
「……いつも思うんだけど、どうして伝書バトじゃなく伝書フクロウなんだろうな」
「夜目が利くからじゃないですか? 鳩は今頃寝てますよ?」
「そんな理由!?」
「おそらくは?」
そんな風に話す様は、やはりまだまだ高校生らしさがあるのだが。
そんな二人を見守る大人たちは、痛いほどよく知っていた。彼らがこの場所を守る最後の砦であり、最強のコンビなのだということを。
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