第15話015「計画完遂」

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第7回カクヨムWeb小説コンテスト】中間選考突破しました!

ひゃっほい!


「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427239834870



********************



——3階層/瑛二



「はあ、はあ、はあ⋯⋯」


 俺は、唯一痛めつけられなかった『足』のおかげで、ハイオークから何とか逃げ続けることができていた。また、ハイオークはそこまで足が早くない魔物だったので、それもまた功を奏していた。


「うぐっ!? ち、ちくしょう、足は大丈夫だが体中が痛い。それにしても吉村の奴、本気で俺の命を狙っていた。どうして⋯⋯どうして⋯⋯あんな理由で⋯⋯『シャルロット様から贔屓されている』ってだけで、人を⋯⋯俺を⋯⋯簡単に殺せるんだよ⋯⋯」


 俺は信じられなかった。柊木、小山田、吉村が俺を殺すほど憎んでいただなんて⋯⋯。たしかに嫌われているのはわかっていたけど、こんな本気で殺すとか⋯⋯おかしいだろ?


 で、でも、もしかしたら、あいつら、人を殺すことを『大したことない』とでも思っているのだろうか? いや、違うな。今のあいつらは『俺を殺すこと』は、転移前に俺をいじめていたのと同じ⋯⋯いじめの延長線上・・・・・・・・でしかないのかもしれない。


 そう考えると、なんだかすごくしっくり・・・・きた。


『いじめと同じ感覚・・で俺を殺す』。これがあの三人の行動原理なのだ。


 しかし、一つだけ違和感がある⋯⋯⋯⋯吉村だ。


 あいつは柊木と小山田とはたぶん違う。狂っているのは同じだが、吉村はもっと猟奇的というか⋯⋯『人を殺すのが好き』なくらいに感じた。もしかしたらゲームオタクの奴は、オンラインゲームと同じ感覚になっているのかもしれない。つまり、ゲーム内でもこうして『プレイヤーキル』のようなこともやっていたのかも⋯⋯ということだ。


 吉村がオンラインゲームで『プレイヤーキル』をしていたのかどうかはわからんが、でも、俺はやっていたんじゃないかと思う。それだけの迫力を俺はさっきの吉村から肌感覚で感じていたからだ。


 ゾッとした。


 そんな奴が『命の価値』が軽そうなこの異世界に召喚され『大きな力』を手に入れた。きっと、あいつはもっと人を殺すかもしれない。


 すると、俺はそこであること・・・・に気づく。


「吉村の奴⋯⋯もし、俺の考え通りの、人を殺すのが好きなサイコ野郎なら⋯⋯どうして俺の足を痛めつけることをしなかったんだろう?」


 その時⋯⋯ハイオークから逃げ続けた俺の足が止まる。


「そ、そんな、マジかよ⋯⋯」


 俺の逃げた通路の十メートル先が途切れていたのだ。


「が、崖っ?!⋯⋯道がない」


 この通路は一本道だった。分かれ道などない。あるとしても、それは今来た道を戻って、最初いた場所からさらに戻らないと⋯⋯。


 行き止まり。もう逃げられない。


 そうなったら、あとはハイオークと『戦う』という選択肢しか残っていない。だが、


「無理だ。ハイオークなんて最低でもレベル5以上はないと⋯⋯」


 授業で魔法先生がそう言っていたのを思い出す。でも、俺のレベルはたったの『2』。絶対に勝てない。


「そうか。これが吉村が俺の足を痛めつけなかった理由・・・・・・・・・・・・・・か⋯⋯」


 あいつ吉村は、おそらくこの通路が『行き止まり』だったことを事前・・に知っていた。それで、俺に止めを刺す役・・・・・・を魔物にやらせるつもりだったのだ。


「しかも、俺があわよくば・・・・・崖から落ちて死ぬという自殺の選択肢・・・・・・も用意していたというわけか」


 俺は、ここまでの用意周到さを見て、吉村がいかにまともじゃないかということを実感しつつ、恐怖に震えた。


あいつ吉村は⋯⋯⋯⋯まともじゃない」



********************



 ズシン⋯⋯ズシン⋯⋯。


 ハイオークの姿がついに肉眼で捉えるだけの距離に迫った。


 しかも不気味なのが、ハイオークはこの先が行き止まりとわかっているのか、さっきまでは走っているような足音だったが、ここへきてゆっくりとした足取りに変わっている。


 まるで、この先が行き止まりだとわかっているかのように⋯⋯。すると、


 ニィィィィィ。


こいつハイオーク⋯⋯嗤ってやがる」


 ハイオークは酷く歪んだ笑みを浮かべる。その顔はまるで「これから、どう痛ぶって殺そうか」とでも言いたそうな⋯⋯そんな顔に見えた。


 その時だった。


「クサカベ様ぁぁーーー!!!!」


 ハイオークのだいぶ後方からではあるが、俺の名前を呼ぶ先生や同級生の声が聞こえた。


「み、みんなっ! 俺はこっちだー! た、助けて! 助けてぇぇーーー!!!!!」


 俺は必死になって、みんなに助けを求めた。



********************



——3階層/柊木たち


「み、みんなっ! 俺はこっちだー! た、助けて! 助けてぇぇーーー!!!!!」

「クサカベ様!」


 目の前にいたハイオークの後ろから瑛二の声を聞いて、魔法先生が瑛二に声を掛ける。


「ハイオーク! この3階層では一番の強い魔物だ!」

「ええ。ですが、ハイオーク程度なら、我らはもちろん、ここにいる救世主様たちの敵ではない! 何とかなりそうだ」


 剣術先生と武術先生がそう言って、魔物ハイオークの脅威は大したことないという声が聞こえ俺はホッとする。しかし、


「いえ、まずいです! この通路の先⋯⋯つまり、今クサカベ様のいるあの先は道が途切れています!」

「「ま、まさか⋯⋯っ?!」」

「そこから下に落ちたら命はありません。それどころか助けに行くことだってできません! ですので、ここは我々がハイオークに攻撃を仕掛けて、こっちに意識を向けなければ⋯⋯」

「で、では、先生! 魔法で攻撃を⋯⋯」

「ダメです! 魔法攻撃はその衝撃でハイオークがクサカベ様側に倒れるかもしれません。そうなると、ハイオークもろともクサカベ様も崖から落ちてしまう・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」

「じゃあ、どうすれば!?」

「物理攻撃がいいでしょう。ハイオークに近づき、剣術と武術を使って倒してください!」

「なるほど! わかりまし⋯⋯」

「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!! 日下部ぇぇーーー!!『冷気波動コールド・ウェイブ』!!『冷気波動コールド・ウェイブ』!!」


 すると、先生らの横から吉村が発狂しながら魔法を連続で展開した。


「な、何をしているんですか、吉村君⋯⋯っ!? やめるんだ! そんな強い魔法攻撃ではクサカベ様まで危険が⋯⋯」

「やめろ、吉村!」


 そう言って、吉村に飛びかかって止めたのは柊木だった。二人はその勢いで地面に倒れる。そして、


 ズドン! ズドン!


「ぐごぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!!!!」


 二発の魔法が直撃したハイオークはその攻撃で死んだのか、そのまま前のめり・・・・に倒れた。



********************



——3階層/瑛二


 ズドン! ズドン!


「ぐごぉぉぉぉぉぉぉ〜〜!!!!」


 俺が助けを叫んでからしばらくして、氷っぽい攻撃魔法がハイオークに二発打ち込まれた。すると、ハイオークはその二発の魔法攻撃で死んだのか、撃たれた後、動きが止まった。しかし、


「え?」


 ハイオークはそのまま、前のめり・・・・に⋯⋯つまり、俺のいるところ・・・・・・・へと倒れてきた。


「うわぁぁぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!!!!」



********************



——3階層/柊木、吉村、小山田


「「「瑛二っ!!!!」」」


 ハイオークが倒れた瞬間、柊木と吉村と小山田が誰よりも先に・・・・・・飛び出して、瑛二のところへ向かった。



********************



——3階層/柊木、吉村、小山田、瑛二


「う、うぅ⋯⋯」


 今、俺の上には巨躯のハイオークがのしかかっていた。五メートルもある魔物が倒れてきたのだ。俺は何とか力を込めたが、それでもハイオークのその重量はハンパなく、俺は何とか生きているものの、まったく身動きができなかった。それどころか、ハイオークの重量で圧死してもおかしくない状況だった。


 すると、そんな俺を引き摺り出した男がいた。


 吉村と小山田だ。


「あ、ありがとう⋯⋯吉村君、信二君」


 俺は体がボロボロで意識も飛びそうな状況であったが、何とか声を出して、ハイオークから引き摺り出してくれた二人に感謝を伝える。しかし、


「おいおい、何、寝言こいてんだ、日下部?」

「⋯⋯え?」


 吉村はさっき俺に「殺す」と言って向けたニヤけ顔でそう呟く。小山田と、少し後ろで見ている柊木は何もしゃべらないが、顔は吉村と同じ顔ニヤけ顔をしていた。


「ヒャハハハ! お前、ハイオークが倒れるのをそのまま受け止めたから瀕死状態じゃねーか! そんな痛い思いするよりよー、後ろに飛び降りたほうがいっそに死ねたんじゃねーか、瑛二ぃ〜? ヒャハハハハハ!」


 吉村は小声ではあるが、瀕死の俺に対して非情な言葉を浴びせる。そんな俺と吉村のやり取りを柊木と小山田は後ろでニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。


「瑛二⋯⋯お前、倒れてくるハイオークの下敷きになったほうが生きられる可能性があると考えて、崖から飛び降りなかったんだな? すげーな! レベル2・・・・のくせになかなか考えたじゃねーか! すげー! すげー!」


 吉村は心底楽しそうな顔で語り続ける。


「だが、まあ⋯⋯⋯⋯それ無駄・・だけどな?」


 そう言うと、吉村は俺の手を掴むとズリズリ⋯⋯と崖のほうへと運んでいく。


「い、嫌だ、や、やめ、やめてくれ。た、たす⋯⋯たすけ⋯⋯助け⋯⋯て⋯⋯。せ、せんせ⋯⋯い⋯⋯」


 俺は必死に大声を上げて先生たちを呼ぼうとしたが、ボロボロになった俺の体では声を張り上げることすらできなかった。


「おい、吉村、早くしろ! みんながこっちへやってくる!」

「お? 悪ぃ、悪ぃ⋯⋯柊木君。ありがとう、教えてくれて!」

「ひ⋯⋯ひい⋯⋯ら⋯⋯ぎ⋯⋯。てめぇ〜⋯⋯」


 俺は柊木が吉村に放った言葉を聞いて、柊木を睨みながら言葉を吐く。もはや、これまでの口調ではなく俺本来の口調・・・・・・で⋯⋯。


「うるさい、黙れ。お前はここで死ぬんだよ。無能のくせに、俺たち⋯⋯いや俺と・・対等だと本気で思っているお前はマジで目障りだ。早く消えろ、ゴミ」

「ひ、ひい⋯⋯ら⋯⋯ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜⋯⋯」

「ヒャヒャヒャ! というわけで、無能でゴミな瑛二ちゃん。いいかげん顔見るのも嫌になったから⋯⋯⋯⋯さっさと死ねよ?」

「お⋯⋯やま⋯⋯だぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜⋯⋯」

「じゃーな、クソザコ。調子こいた自分に後悔して死ねっ!」

「よ、よし⋯⋯む⋯⋯らぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


 俺が力を絞り出って声を張り上げた⋯⋯⋯⋯その瞬間、


 ブン⋯⋯。


 吉村が雑に俺の体を崖へと放り投げた。


 俺は、そのまま暗闇へと吸い込まれように落ちていった。

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