第14話014「計画決行」

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第7回カクヨムWeb小説コンテスト】中間選考突破しました!

ひゃっほい!


「自重知らずの異世界転生者-膨大な魔力を引っさげて異世界デビューしたら、規格外過ぎて自重を求められています-」

https://kakuyomu.jp/works/16816700427239834870



********************



「お前、もういらねーわ」


 突然、吉村の態度が変わった。


「え? い、いらないって⋯⋯。よ、吉村君?」

「気安く『吉村君』なんて言うな⋯⋯⋯⋯無能がっ!」

「⋯⋯っ!?」


 吉村が冷めた目で俺を見据える。


「俺としてもだな、本当はだな、お前を殺したくはないんだよ?⋯⋯⋯⋯だから、さっき説得したじゃん?」

「え? 俺を⋯⋯殺し⋯⋯え?」


 な、何を言っているんだ、吉村こいつ⋯⋯。


「なのに、お前ときたら『救世主になることを諦めない』なんて言う始末⋯⋯。挙句の果ては『特別な力が⋯⋯』とか言い出すしよ。あるわけねーだろ、そんなもん! この世界は、ゲームでもなければ、アニメでもラノベでもねー。ただの現実リアルなんだよ。そして、お前のはただの『ハズレ称号』なんだよ。特別な力とか頭おかしいんじゃねーか、お前っ?!」

「⋯⋯そ、そんな」

「そんな『ハズレ称号』で無能のお前が、何でシャルロット様からやたら贔屓されてんだよ! しかもそれに喜んでニヤニヤしやがって⋯⋯何様だ、てめえ!」

「(ビクッ!)」


 突然の吉村の恫喝に俺は完全にビビって体を硬直させる。


「何、ビビってんだよ、無能? 特別な力があるんだろ? じゃー、早く出してみろや⋯⋯オラっ!」


 バキッ!


「ぐはっ!?」


 突然、吉村が俺の顔を殴ってきたがそのパンチは⋯⋯まったく見えなかった。


「どうだ? 俺のパンチは見えたか? 特別な力があるんだったら見えるだろ? どうなんだよ⋯⋯ええっ!?」


 ゴッ! ドゴ! ゴス! ドガッ⋯⋯!!!!!


「オラっ! どうした? どうしたよ? オラ、オラー!」

「うごっ!⋯⋯がはっ!⋯⋯ぐぎっ!⋯⋯がはぁーーーっ!!!!」


 吉村は倒れた俺の頭や腹に強烈な蹴りを何発も入れる。俺は直撃を避けようと咄嗟に両腕を動かしながら必死にガードしていたが、そのガードしている両腕に強烈な蹴りが入ると、ガードは脆くも崩れ、吉村の蹴りが何発も入る。


「ご、ごほ、ごほ⋯⋯!」

「オラ⋯⋯立て、コラ」


 俺は吉村にストンピングで何度も顔や体に蹴りを入れられた後、今度は無理矢理立たされた。


「さて、これでお膳立て準備完了だ。次に魔物をここへ誘い出して・・・・・・・・・・・⋯⋯と」

「⋯⋯え? ま、魔物⋯⋯?」


 吉村がニチャァと笑みを浮かべる。


「お前は気づいていないだろうが、俺たちがさっき通った百メートルくらい後ろで魔物の気配を感じた。おそらく魔物の自動生成リポップしたんだろう⋯⋯それをだな⋯⋯」

「⋯⋯(ごくり)」

「ここに誘い出して、お前を襲わせるんだよ」

「⋯⋯っ!?」


 こ、こいつ、吉村の奴、本当に俺を殺そうとしている。⋯⋯⋯⋯本気だ。


 ニィィイィィィィィ⋯⋯!


 吉村が今日一番の醜く歪んだ笑顔を見せると、魔物が自然発生リポップした通路のほうへ行き、魔物⋯⋯ハイオークにみつかるよう、ワザと怯えた姿・・・・・・・を見せる。


 ハイオークはその吉村の怯えた姿を認識すると、こっちへゆっくりと歩いてきた。吉村はハイオークが自分をターゲットにしたのを確認すると、ボロボロになって地面に転がる俺のところへ戻ってきた。


「これからお前はあのオークの上位種『ハイオーク』にグチャグチャに殴り殺される。そんなお前に、俺から慈悲として、せめてもの『プレゼント』をやる」

「な、何⋯⋯を⋯⋯」

「お前を殺そうとしたのは俺以外に『小山田』と、そして⋯⋯⋯⋯『柊木』の三人だ」

「⋯⋯え?」

「俺も小山田も柊木もお前を殺そうと思った理由はただ一つ⋯⋯⋯⋯『無能のくせにシャルロットに贔屓されるお前がムカつくから』だ。ヒャハハハハハハハハ!」


 吉村はその酷く歪んだ笑顔で下品に高笑いする⋯⋯俺を殺せるのが心の底から嬉しいようだ。これが吉村の『本性』なのだろう。


「そ、そんな⋯⋯それだけの理由で⋯⋯ひと一人、殺すってのか?」

「そうだよ? だって、ここは地球でもなければ日本でもない。そして、俺たちは尋常ならざる力を持っている。その程度の理由・・・・・・・で人を殺せるくらいにはな。ヒッヒッヒ⋯⋯」

「⋯⋯狂ってる」


 狂ってる。


 その程度の理由・・・・・・・で人を殺せるくらいには⋯⋯⋯⋯ちゃんと狂ってる。


 いや、吉村こいつはむしろ、元々・・なのか?


 そして、柊木・小山田あいつらもそうなのだろうか⋯⋯。



********************



 ズシン、ズシン⋯⋯。


 いよいよ、通路の奥からハイオークであろう足音が聞こえてきた。


「さてと、それじゃあ俺はおいとましますか。⋯⋯じゃあな、瑛二」

「ま、待って⋯⋯待って⋯⋯くれよ⋯⋯吉村。た、助けて⋯⋯」


 俺は、目の前の、俺を殺そうとしている吉村おとこにでさえも、情けなくも命乞いをする。しかし、


「助けるわけないじゃん? お前はここでハイオークにただおもちゃのように・・・・・・・・・・、グチャグチャに殴り殺される。痛いと思うけど、ガンバッ!⋯⋯『隠蔽ヒドゥン』」

「えっ!?」


 突然、目の前にいた吉村の姿が消えた。


 どうやら魔法で姿を消した・・・・・・・・ようだ。


 俺は体の痛みに耐え、何とか立ち上がる。そして、すぐに辺りを見渡すが吉村の姿はもう⋯⋯みつからなかった。


「じゃーなー、無能! ヒャハハハハハハハハ!!!!!」


 どこからか吉村の醜い笑い声がダンジョン内に木霊する。


「吉村君っ!! 吉村君っ!!⋯⋯よしむら⋯⋯吉村ぁぁぁぁぁーーーっ!!!!」


 シーン⋯⋯。


 吉村の気配が完全に消える。


 そして、それと入れ替わるように⋯⋯、


「ぐもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

「ひぃ⋯⋯っ!!」


 通路の奥から片手に大きな斧を握りしめた、五メートルはあるであろうハイオークの姿が見えた。



********************



——3階層/柊木たち


「おい、今何か聞こえなかったか?」


 柊木たち一向は、ちょうど3階層へと降りてきた。


 すると、そこで魔法先生が何かの音・・・・に気づく。


「き、聞こえました。魔物の叫び声⋯⋯」

「今のは、たぶん⋯⋯オークか、ハイオークかと」


 剣術先生、武術先生もまた、魔法先生と同じくその『叫び声』に気づいた。


「私たちにも聞こえました!」


 柊木がそう進言すると、他の生徒も柊木の言葉にコクコクと相槌を打つ。すると、


「あ! せ、先生! みんなーー!」

「「「ヨ、ヨシムラ様っ!!!!」」」


 前方から吉村が走りながら声をかけてきたのを見ると、先生、生徒らが急いで吉村の元へと駆けつけた。


「よ、吉村君! 無事でしたか!」


 魔法先生が真っ青な顔で動揺する吉村に声をかける。


「日下部が⋯⋯日下部とはぐれてしまって⋯⋯。それで、3階層をずっと探していたんですが⋯⋯どこにもみつからなくて⋯⋯」

「い、いない?! クサカベ様とは一緒じゃないんですか!」

「はい⋯⋯日下部が、いきなり『もうだいぶレベルが上がってきたから、俺一人で魔物狩るわ』って言って、僕とのパーティーを解除して、一人でいなくなっちゃったんです!」

「な、何ですって⋯⋯っ!?」

「すみません⋯⋯。さっき1階層で日下部に『ダンジョンで一気にレベル上げしたいから手伝ってくれ』って半ば強引に言われて、それで、僕⋯⋯断りきれなくて⋯⋯」

「そ、そんな⋯⋯勝手を⋯⋯」


 吉村がボロボロ涙をこぼしながら、魔法先生に悲痛な叫びを訴える。


「な、何をやっているんだ、クサカベ様は! どれだけレベルが上がったかしらんが、初めてのダンジョン、初めての実戦特訓で単独での魔物討伐など危険すぎるにも程があるっ!」

「まったくだ! 何を考えているんだ、クサカベ様は!」

「二人パーティーだったとはいえ、レベル2のクサカベ様なんて、この一時間程度ならよくてレベル4くらいしか上がってないでしょう!? レベル4程度で3階層の魔物相手に単独討伐だなんて⋯⋯あまりに無謀すぎる!」


 先生らは皆、『日下部の身勝手な行動』に怒りの言葉を吐き出す。⋯⋯吉村の言葉をそのまま信じて。


「先生! あいつはレベルが上がらないことに苦しんでいたんです! 無謀で身勝手な行動かもしれないけど、あいつはあいつなりに『強くなりたい』とずっと焦っていたんです! 僕にはわかります! だから、日下部を⋯⋯どうか責めないでください!」


 吉村は怒っている先生たちに「日下部を責めないで!」と必死に訴えかける。


「吉村君! 君のクサカベ様を思う気持ちは素晴らしい! しかし、クサカベ様のこの無責任な行動はとても許し難いものです! 下手すれば、吉村君も危険な目にあう可能性もあったのですから!」

「せ、先生! ひとまず、急いで日下部を探しましょう! さっきのオークらしき叫び声のほうに、もしかしたら日下部がいるかも⋯⋯」


 吉村に同情すると同時に、瑛二の身勝手な行動へ怒りまくる魔法先生へ柊木が声を掛ける。


「そうですね、わかりました! 説教は後です! まずは日下部くんを探しにオークの声がしたあの⋯⋯⋯⋯吉村君がやってきた通路とは反対・・のあの通路へ向かいましょう!」

「「「「「はい!!!!」」」」」


 そう言って、皆がオークの叫び声がした通路へと入っていった。

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