第10話010「明確なる殺意」



 時は少し遡り——学園特訓初日が終わって『王宮の間』にシャルロットに呼び出された⋯⋯その後。


 柊木が瑛二を除く六人全員を自分の部屋に来るよう呼びかけたところから始まる。


「みんなに集まってもらったのは他でもない、『日下部』についての話だ」

「⋯⋯だろうな」


 柊木の言葉に相槌を打ったのは吾妻。


「瑛二の野郎〜、シャルロットちゃんにちょっと贔屓されたからって顔ニヤつかせやがって⋯⋯マジ、ムカつく!」

「⋯⋯」


 先程の『王宮の間』のシャルロットと瑛二の態度にイライラして文句を言うのは小山田。そして、その小山田を横でジッと見ながら何も喋らないのは吉村。


「シャルロット様は日下部が落ち込んでいないかという確認と、やる気があるかどうかの確認をしただけだろ? 別にそこまでイライラするものでもないのでは?」


 そう言って、小山田の言葉に「大げさだ」と言いたげな言葉を放つ古河。


「でも、シャルロット様は事の重大さをわかっているのでしょうか? 瑛二君のあの実力ステータスでは、今後魔物を狩るような訓練になったら下手したら死んでしまう可能性が高いのに⋯⋯。正直、あんな無責任に励ますのはかえって日下部君の命を危険に晒すだけだと先生は思います」


 シャルロットの瑛二への励ますようなあの態度や言動は危険だと、シャルロットの対応に疑問を呈するユーミン。


「うん、そうだ。ユーミンの言う通りだ。シャルロットは日下部を励ますつもりで言っているようだが、あれは日下部を危険に晒すことになると俺も思う。だから、もう一度俺たちで何とかシャルロットに日下部を救世主の特訓カリキュラムから外してもらうよう説得する必要がある!」


 みんなが柊木が言ったことに同意の意志を見せる。しかし、ここで吾妻が、


「だが、シャルロットは一ヶ月は様子を見ると言っていた。しかも女王命令だと。ということは、いくら俺たちがシャルロットにどうこう言ってもこの決定がそう簡単に覆えるとは思えない」


 と、シャルロットの説得は難しいと呟くが、柊木がすぐにその疑問に返答する。


「ああ、確かにそうだ。しかし⋯⋯だ、もしも『日下部が、自ら特訓カリキュラムを抜けたい』と言えばどうだ?」

「日下部自身が?」

「ああ。あいつも一応、現在の自分の状況はわかっているはずだ。自分は周りに比べて全然成長していないということを⋯⋯」

「そうだな」

「そして、俺たちは、その『自分は成長が遅い』と感じる日下部のこの心・・・を利用すればいい」

「何をする気だ?」

無視シカトするのさ、あいつを。そうすれば、あいつのメンタルは折れてシャルロットに特訓カリキュラムの辞退を申し出ると思う」

「そういうのは⋯⋯私は嫌いだ」


 古河は柊木の提案を否定。しかし、


「うん、別にいいよ。参加しなくても。でもね、日下部の心を早く折れさせなければ、それだけ特訓カリキュラムから抜けるのが遅くなる。そして、それは日下部の命が危険に晒されることになるんだよ?」

「どういうことだ?」

「特訓カリキュラムの二週間目には、いよいよ魔物討伐が始まる。ブキャナン宰相によると一週間もすれば王都周辺の魔物討伐が余裕でこなせるだけのレベルになっており、かつ自主訓練ではレベル成長の限界がくるはずだからと。だから、日下部は一週間以内に辞退させるべきだと俺は思っている。そのためのシカトだ!」


 柊木が自身の正当性を古河に主張する。


「まあ、今すぐに決めなくてもいいよ、古河さん。でも、一週間⋯⋯いや三日もすれば俺の言っていることの正しさがわかってくれると思う。だから今はシカトすることに参加しなくてもいい」

「⋯⋯わかった」

「じゃあ、古河以外の四人で異論はある人はいるかな? 参加が嫌な人は手を挙げてくれ」


 しかし、四人は誰も手を挙げることはなかった。


「OK。じゃあ、みんなで日下部が特訓カリキュラムを辞退すると考えを改めるように、ツラいとは思うがシカトをしよう。大変だとは思うが、これは全て⋯⋯⋯⋯日下部のためだから!」


 そう言って、柊木がみんなに深く頭を下げた。


「協力ありがとう! 一緒に頑張ろう!」



********************



——十分後『柊木の部屋』


「へへ、うまくいきましたね、拓海君」

「ああ。それにしてもこれは良い作戦だな。やるな、吉村」

「いやいや、拓海君の人間的信用度や言葉だからこその作戦だ。さすが拓海君だよ。それに、日下部あいつは俺も嫌いだからな」


 今、柊木の部屋には柊木、小山田⋯⋯そして吉村透がいた。小山田と吉村は一度解散ということでみんなが部屋から出た後、十分後に改めて柊木の部屋に戻ってきたのだ。


「日下部の奴⋯⋯雑魚ステータスの無能のくせに、シャルロットたん・・・・・・・・からあんな励ましの言葉なんてかけられやがって! あのクソ雑魚がっ!? 殺してやりてーよ!」


 吉村は、爪をガチガチと唇で噛み、激しく貧乏ゆすりをしながらブツブツと憎悪を込めて呟く。それを見た柊木と小山田もまたニチャァと笑みを浮かべながら、


「ああ、まったくだ。あのクズがこれ以上調子に乗るのは俺もはっきり言って⋯⋯⋯⋯ムカつく」

「拓海君の気持ちよくわかるよ! 正直、瑛二には圧倒的な実力差を見せつけて絶望させてやろうよ? ヒャハハハハ!」


 今回の『瑛二へのシカト作戦』は表向きは『瑛二の命を救うため』というものだが、本当の狙いは『場違いな無能のくせに、いちいちシャルロットから贔屓されている瑛二を追い出す』というものだった。


 そして、それはすべて三人の計画によるものであった。



********************



——それから学園での特訓が始まって一週間が経過


 結局、三人が計画した『シカト作戦』は失敗に終わる。


 それどころか瑛二は『やる気』に満ち溢れながら特訓を黙々とこなしていた。


 そんな、やる気に満ち溢れた顔で自主訓練する瑛二を見る柊木、小山田、吉村は、


「どうする? 拓海君?」

「あいつ、確実に一ヶ月はここに居続けるぞ?! いいのかよ?! あんな無能が、楽しそうな顔して自主訓練するのを一ヶ月見続ける羽目になるんだぞ!? 許せんのか?! 俺は許せん! 何であいつは無能のくせに『リア充』みたいな顔してやがるっ!? 腹立つっ!!!!」


 小山田が柊木に冷静に指示を仰ぐ横で、吉村はかなり瑛二に対してイラついていた。余程、シャルロットに贔屓された瑛二が許せないのだろう。


「なあ、もういっそ⋯⋯⋯⋯殺してもいいんじゃないか?」


 すると、吉村がいきなり冷静な口調で物騒・・なことを言ってきた。


「ああ、それ、いいんじゃない? 正直、特訓初日から今までずっとシャルロット様に贔屓されているような状況なんだ。昨日だって特訓後の『王宮の間』でも瑛二の奴だけ、特別声かけられてニヤついていたしな。正直、あの顔見たら吉村君の言う通り、殺してもいいんじゃないかって思うよ」


 そんな吉村のシャレにならない言動に、小山田が普通・・に乗っかってきた。


「ああ、その通りだ! これから最低一ヶ月も、あいつがシャルロットたんに贔屓されてニヤついている顔を見るのはもうウンザリだっ! 殺しちまおうっ!」


 小山田はやんわりと、吉村は激しく、柊木に『瑛二を殺す』ことをさらに提案してくる。


「い、いや、しかし⋯⋯流石にそれはやり過ぎじゃないか? それに、あいつを殺したら俺たちは罪とされて、牢屋に入れられることになるぞ? 下手したら死刑もありうる!」

「大丈夫だ! 問題ない! 次の特訓カリキュラムは『魔物討伐』だ! やり方次第で事故と見せかけていける・・・っ! 何たって俺はオンラインゲームで事故に見せかけての『プレイヤーキル』は十八番おはこだったからな! 俺が全部お膳立てするし、何なら俺自ら奴を葬ってやる! 任せろっ!!!!」


 柊木が吉村を止めようとするが、吉村はそんな柊木に耳を傾けることなく力強く発言する。


「吉村⋯⋯お前そこまで瑛二にツラい・・・思いを⋯⋯悔しい思いを⋯⋯抱えていたんだな⋯⋯」


 ここで柊木が吉村に同情するかのような言葉をかけた。


「そうだっ! あいつの、あのリア充顔に俺は胸を掻きむしられるくらい傷ついた! それに、奴を殺すことは⋯⋯⋯⋯シャルロットたんを正気に戻すためでもあるんだ! 俺が正義の鉄槌を下してやるっ!!!!」


 吉村は自分の想いが柊木に伝わったと思い、目をギラギラさせながらニチャァと笑う。


「どうする、拓海君? 俺は拓海君に従うよ?」

「⋯⋯わかった。本当はこんなことやってはいけないことだ。人一人を殺すんだからな。でも⋯⋯⋯⋯それだけ心を傷つけられた吉村の姿を見ていると、そんなキレイゴト・・・・・言ってられないってことがわかったよ⋯⋯。吉村、お前の提案、受け入れようっ!」

「ありがとう、拓海君!」


 そう言って、吉村は柊木の手を握り、何度も何度も頭を下げてお礼をした。その横では小山田が「うまくいきましたね」と柊木にアイコンタクトを送り、それに気づいた柊木も「⋯⋯チョロい奴だ」と言うようなアイコンタクトを送り返す。


 そう、柊木と小山田は特にそこまで計画していたわけではなかったが、自然と・・・吉村に『瑛二殺しの実行犯』になってもらいたく、ここまで吉村を誘導・・したのだ。


 そうすれば、仮に殺しがバレたとしても「吉村の狂気じみた迫力に従わざるを得なかった」と言い訳することができるからだ。


 それに、吉村はステータス確認後から「俺の時代がやってきた⋯⋯」などとブツブツ呟きながら、王城内を歩いているのを多くの人から目撃されており、そんな目撃者からは「ひとり言をブツブツ呟く不気味な人」と認識されていたので、柊木と小山田が考えていた『言い訳のシナリオ』は完璧だった。


 そんな、三人が計画を画策している中、特訓カリキュラムは『魔物討伐』へと移行した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る