第7話007「救済策」
「別に平民になるのはいいよ! 救世主になんてなれなくてもいい! でも⋯⋯でも、せめて俺がここで⋯⋯この世界で生きていくための勉強くらいはさせてくれよ! 俺以外の奴らが強くなって『救世主』として認められてここからいなくなっても、二年間は学園でこの世界のこととか、生活のこととかを俺に学ばせる時間をくれよ! 頼むよ! 俺が異世界人のくせにクソみたいな能力しかないことはわかったよ! 役立たずなこともよーくわかった! でも⋯⋯でも⋯⋯だからといって、すぐに捨てたりとかしないでくれよ! お願いだよ! どうか、せめてもの⋯⋯情けとして⋯⋯俺に⋯⋯生きる術を⋯⋯二年間だ⋯⋯けで⋯⋯いい⋯⋯学ばせて⋯⋯く⋯⋯れよ⋯⋯」
俺はいつの間にか涙を流していた。いや、涙どころか鼻水やヨダレとお構いなしにいろいろなものを流していた。でも、そんな醜く情けない格好を見せてでも、俺は自分の願いをありったけの言葉と感情で訴えた。しかし、
「フン⋯⋯醜いな」
「⋯⋯」
ブキャナンはそんな俺の悲痛な訴えを鼻でフンと軽くあしらった。
ああ、醜いよ。醜いさ。だって俺はあんらみたいに強くないんだからな。
「悪いがクサカベ様。いや⋯⋯クサカベ! 貴様のような男としてのプライドも無い情けない奴に、お金を無駄に使うほどこの国は甘くは⋯⋯」
「そこまでですっ! ブキャナン・ジオガルド宰相!」
「な⋯⋯っ!? シャ、シャルロット⋯⋯様!?」
その時、シャルロット・エルクレーン女王がブキャナンの言葉を遮った。まさか、ここで止められると思っていなかったのか、ブキャナンはシャルロットの制止に驚いている。ていうか、俺も驚いた。
「エイジ・クサカベ様⋯⋯。今のブキャナンの軽はずみな言動、及び失礼な言動、誠に申し訳ございませんでした。お許しくださいませ」
「なっ!? シャルロット様! な、なぜ⋯⋯」
シャルロットは瑛二に深々と頭を下げた。仮にも一国の王であるシャルロットが異世界の救世主とはいえ、通常、絶対にここまで深々と頭を下げることはない⋯⋯。少なくてもこの世界の常識では。
しかし、シャルロットは一切の躊躇もせず、瑛二へ頭を下げた。この事に周囲の者すべてが驚愕のあまり固まる。
「確かに⋯⋯ブキャナンが言うことやオヤマダ様が言及していた内容は事実です」
「そ、そうです! そうです、シャルロット様! ですから⋯⋯」
「しかし⋯⋯っ! この世界に突然こちらの都合で召喚されたのもまた事実! そして、なぜだかわかりませんが、クサカベ様だけが『救世主』として低いステータスであったこと⋯⋯⋯⋯これもまた事実ですっ!」
ここで一度、シャルロットは一拍置くと優しい笑顔を俺に向けた。
「何よりも、先ほどのクサカベ様の心の叫びが⋯⋯悲痛なまでに心が傷ついていること⋯⋯これも⋯⋯また揺るぎ⋯⋯ない事実で⋯⋯す」
「なっ!? シャ、シャルロット様⋯⋯泣い⋯⋯て⋯⋯」
シャルロットは泣いていた。優しい笑顔で俺のために泣いてくれた。場違いな感想かも知れないが、その時のシャルロットの顔はとてもキレイだった。⋯⋯美しかった。
それは「もしも俺に力があったら、この人のために命を懸けられる!」と思わせるほどに。
「心配はいりませんよ、クサカベ様! 私があなたの二年間は保証します!」
「なっ!? シャルロット様⋯⋯っ!!!!」
「クサカベ様の二年間のすべての支援金は私の私財で賄います! 税金は使わなくて結構です。これなら問題ないでしょう、ブキャナン・ジオガルド宰相?」
「ぬ⋯⋯っ?! そ、それで⋯⋯あれば問題⋯⋯ありません」
「クサカベ様は、これからもこの世界で生きていくのです。それには知識や技術は必要です。なので、せめて二年間は⋯⋯この世界のことを学ぶ時間として二年間は見てやって欲しいのです。ダメ⋯⋯でしょうか?」
そう言って、シャルロットがブキャナンに上目遣いにコテンと首をかしげて懇願した。
「う⋯⋯っ! シャ、シャルロット様、そ、それは、卑怯というものですぞ! あなたにそこまで懇願されたら私が断れるわけないでしょうがっ!!!!」
「ウフフ、ありがとう、ブキャナン宰相! そういうところ大好きですよ!」
「っ!? ま、まったく⋯⋯シャルロット様は、本当にまったく⋯⋯ぶつぶつ」
どうやら、シャルロットがブキャナンに駆け引きで勝ったようだ。ていうか、何かブキャナン宰相って案外悪い人ではないような⋯⋯そんなことを思っていると、
「おい、クサカベ!」
「は、はい!」
「貴様、シャルロット様に慈悲をかけてもらったからといって調子に乗るなよ?」
「⋯⋯うっ!?」
「もしも、学業が疎かになっていたならば二年待たずして、私自らがお前をふん捕まえて、そのまま街中へ放り出してやるっ! 覚悟して勉学に励め! よいなっ!!!!」
「は、はははは、はいぃぃーーーっ!!!! が、頑張って勉学に励みます! あ、ありがとうございますっ!!!!」
「ふん! 話は以上だ!」
ブキャナンに思いっきり、でっかい釘を刺された。
そうして、苦々しい顔のままブキャナンは王宮の間を出ていった。
こ、こえぇ〜。
や、やっぱり、ブキャナンはやばい奴だ。マジで良い奴なんてことはありえん!
とりあえず、俺はシャルロットのまさかの『慈悲』のおかげで、何とか首の皮一枚つながった。
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