第6話006「救世主の地位」



 全員のステータス確認が終わった後、一人一人部屋を割り当てられていたので俺たちは各自部屋に入った。


「それでは何か御用がありましたら、そちらの机にある『ベル』をお鳴らしくださいませ。では失礼致します」

「あ、ありがとう⋯⋯ございます⋯⋯」


 そう言って、王宮に仕えているメイドさんが挨拶をして出ていく。


 部屋は一人で使うにしては広く、また備え付けられている調度品も高級品が並んでいたので豪華な部屋であることは一目で分かった。⋯⋯⋯⋯同時に、ここが本当に地球でないことも、改めて。


「⋯⋯マジで異世界か。今さらながら信じられない⋯⋯」


 俺は誰に言うでもなく、ひとり言を呟く。


「⋯⋯俺、これからどうなるんだろう?」


 もし、他のみんなクラスメートと同じように『特別な力』が備わっていたのなら、この異世界でも何とか楽しく生きていこうと前向きになれたのだろう。しかし、


「俺はみんなと違ってただの無能。しかも、この世界の一般人よりも能力値が低い⋯⋯⋯⋯クズ無能・・・・といったところか」


 俺は、もうこの時点で精神がかなりすり減っていた。


 当然だろう? だって、本来なら異世界人は皆『能力値が高い』だとか『すごい称号が得られる』だとか言われていたのに⋯⋯。なのに、俺だけ⋯⋯俺だけが⋯⋯こんな⋯⋯平民よりも⋯⋯低い能力⋯⋯値だなんて⋯⋯。


 気づくと、俺は泣いていた。


 涙の理由わけはわかっている。


 地球でも異世界でも自分のあまりにダメダメな運命・・・・・・・に悔しいんだ! 悲しいんだ! いや、それよりも何よりも、


「惨め⋯⋯なんだ」


 俺はベッドの上で跪くと、両手をギュッと強く握りしめながら、ただひたすら⋯⋯⋯⋯泣いた。



********************



——次の日


 俺たちは『王宮の間』という、俺たちが召喚された昨日の部屋へと集められた。


「それでは、これからについて話をしたいと思います⋯⋯ブキャナン宰相」


 シャルロットがそう言うと、昨日の『じーさんず』のうち、あの屈強な『コワモテおっさん』が前に出てきた。


「初めまして、異世界の救世主様方。私はこの国の宰相を務める⋯⋯ブキャナン・ジオガルドと申します」


 年齢はおそらく五十歳前後のようだが、とにかく迫力が凄かった。


 身長が180センチ近くあるということもあるが、それよりも鋭い目力や、数多の修羅場を潜り抜けてきた者のような、そんな強者が放つオーラを纏っていたのだ。


 しかし、この時の俺は絶望しかなかったので、正直、宰相の話などどうでもいいと思っていた。しかし、


「これから救世主様方には、将来、この国の騎士や魔法士、魔道具研究者を目指す若者たちが学ぶ教育機関『エルクレーン総合学園』へと通っていただきます。そして、そこで剣術、武術、魔法、魔道具などを学びつつ、その合間に実践訓練として魔物討伐なども行っていく予定です」


 学校! 学校に通うのか! しかも二年間!


 俺は宰相の話に『希望』を見出した。


 だって、そうだろ? 学校に通えばこの世界のことが学べる。そして、世界を知れば自ずと俺がこの世界で『できること』もみつかるかもしれないじゃないか!


 昨日、俺は部屋で絶望し泣いていたが、今、この話を聞いて「まだやれることはある!」とやる気が出てきた。


 よし、やってやる! できることはまだあるっ!


「学校? 学校があるのか? 面白そうだな」

「おいおい、しかも剣術とか魔法とか、めっちゃ楽しみなんですけど〜」


 そんな俺の横では、ブキャナンの話を聞いて柊木と小山田がお気楽な反応をしていた。高スペックだからこその余裕だろう。だが、もういい。もうあいつらに構うな、俺!


 俺は高スペック組勝ち組とは違うんだ! 認めるんだ!


 俺は低スペック組負け組! まずはそこを自分で受け入れるんだ!


 そうだ! この今の自分負け組を認めてこそ、俺の本当の異世界生活がはじまる!


 俺は、もう一度自分を『奮起』させて、この世界で生きていこうと改めて気合いを入れた。


「学園での教育期間は一年程度を予定していますが、救世主様たちの成長度合いによっては教育期間の終了が早まったり・・・・・することもありますのでご理解ください。ただし⋯⋯」


 チラっ。


「ん?」


 俺が一人気合いを入れていると、突然、宰相の視線が俺に向いたように見えた。


「学園での教育期間は最大二年です。そこまでいても成長が見られない場合は、申し訳ありませんが『救世主の地位』は無くなることと思っていてください」

「あの〜『救世主の地位』ってなんすか?」

「良い質問です、オヤマダ様。現在、異世界の救世主様方は『特別待遇』として、この国では丁重に扱わせていただいております。王宮での生活、月々の給料、公爵と同等の身分、一流講師による教育⋯⋯などなど、それらすべてが『救世主の地位』というものになります」

「み、身分が公爵と同等ですか! 何という、破格な待遇⋯⋯」


 ブキャナン宰相の説明に、ユーミンがいち早く反応する。さすが先生といったところだ。


「しかし、これら待遇は最大で二年まで! そして、その期間を過ぎても『救世主』と認められるだけの力が得られなかった場合、ただちに『平民』の身分となってこの国で生きていくこととなります!」


 今度は、確実にブキャナンが俺を見て説明をした。


 ここまで、あからさまな態度を取られたら宰相が「何を言いたいのか」誰でもわかるというものだが、このタイミングで最悪・・な奴が的確な一言を入れてきた。


「ヒャハハハハ! それ、お前のことだぜ、瑛二よ〜」

「⋯⋯くっ!?」


 小山田である。しかし、こいつの『へらず口』はこれだけでは終わらなかった。


「ていうかさ〜、逆に言ったら、瑛二以外の俺たちがさっさと強くなって『救世主』として認められたら⋯⋯⋯⋯二年もいらなくね?」

「なっ?!」

「だってよ〜、俺たちの生活費やら給料やらってのは国民⋯⋯この国の民の税金によって賄われるんだろ? 救世主の力があるならいざ知らず、もしも、その救世主の力がないような奴に二年間もお金を使わせるなんて、それって、あまりに国民に申し訳ないんじゃないの?」


 小山田は俺が一番恐れている・・・・・ことを口にした。こいつはいつもそうだ。何かと俺を困らせていつも楽しんでやがる。しかし、今回は洒落にならない。


 この世界の文化レベルは『異世界ものの定番』である『中世時代』なんだぞ! 今さら、そんな時代に何も無く放り出されたら、まともに生きていける自信なんてない!


 俺は、どうにか最低でも二年間は『救世主の地位』を確保して欲しい、学校に通わせて欲しいと頼み込もうとした。しかし⋯⋯、


「オヤマダ様の言う通りでございます。こちらと致しましても召喚した責任として異世界の救世主様方のこの世界での生活のサポートは万全に行うつもりであります。ですが!⋯⋯正直はっきりと言わせていただきますが⋯⋯⋯⋯エイジ・クサカベ様」

「えっ?! あ、は、はい!」


 俺は名前を呼ばれると思っていなかったので、思わずきょどった。


「クサカベ様のそのステータスでは今後⋯⋯⋯⋯『救世主レベル』で強くなることは無理でしょう」

「な⋯⋯っ!?」

「私はこれでも十年前は王宮の近衛騎士団の団長を務めてました。その私がはっきりと言います。たかだか二年で平民より初期値が低いクサカベ様が『救世主レベル』で強くなることなど絶対にあり得ないっ!!!!」

「そ、そんな⋯⋯」

「クサカベ様以外の救世主様たちはおそらく一年も経たずに『救世主』と認められるだけの力を得るでしょう。そして、そのタイミングで、クサカベ様は『救世主の地位』を剥奪し、平民として生きてもらいます。救世主でない方のサポートのために国の税金は使えません!」


 俺は思わずチラッとシャルロットに視線を向けた⋯⋯が、シャルロットはブキャナン宰相を特に止めるつもりはないようだった。つまり、ブキャナンが言っていることは間違っていないのだろう。だけど⋯⋯、


「これは、シャルロット様にもちゃんとお話をして納得してもらっている。シャルロット様に助けを求めても無駄だ!」


 ブキャナン宰相は、そう言いながら同情⋯⋯いやそれ以上の落胆した表情を浮かべた。その表情からは、まるで「女王に助けを乞うなど恥を知れ」とでも言いたげだった。


「い、いや、待ってくれよ? 俺は何も悪いことなんてしてないじゃないか? それに一度死んで、もう一度『転生』という形で生き返らせてもらったっていってもさ、そんなの⋯⋯⋯⋯俺が望んだわけじゃないっ!!!!」


 俺は、ついにキレてこれまで溜まってたものを一気に吐き出した!

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