男友達とも時間を大切に

 お盆の過ごし方は人それぞれだろう。

 家族とゆっくり過ごすのはもちろん、一人でのんびりする人も居ればもしかしたら友人たちと過ごす人も居るだろうか。

 そしてこの季節になると別に決められているわけではないが、亡くなった家族の墓参りというのも珍しくはない。


「ふわぁ~」


 そんなお盆だが、龍一は朝から眠たそうに目を擦っていた。

 時刻は十時過ぎで結構遅い時間だが、昨夜はバイトの関係もあって少々帰るのが遅かったのだ。


「……何もやることねえなぁ」


 一人で暮らしている龍一にとってそれはいつもと変わらないことだ。

 墓参りは前に行ったので行くつもりはないのだが、っとそこまで考えて龍一は苦笑した。


「少し前は墓参りなんざ全く考えなかったのに変わったもんだな」


 またいずれ行ってやるかと龍一は笑った。

 さて、それにしても暇だなと龍一はスマホを手に取った。


「……………」


 特に誰と会うつもりもなければ誘うつもりもないのだが、どうやら龍一と同じように暇を持て余している奴が居たようだ。


「真か」


 暇ならどこかに行かないかと真から連絡が入っていた。

 一体どこに行くつもりだよと笑った龍一はすぐに出ると返事を送り、私服に着替えて外に出た。


「……あっつ」


 炎天下の中で外に出れば暑いのは当然だ。

 真と待ち合わせをした駅前に向かうと、彼は二人組の女性をナンパしている途中だったらしい。

 相手の二人も満更ではない様子で真と話をしており、本当に手馴れているなと龍一は逆に感心するほどだ。


「おい、人を呼びつけて何ナンパしてんだよ」

「おっと龍一、来たか」


 近くで見て分かったことだが女性二人は成人だ。

 彼女たちからすれば高校生にナンパされて顔を赤くしていたようなものだがやはり満更ではなさそうで、真だけでなく龍一にも興味ありげな視線を向けていた。


「私、彼の方が好みかも」

「そう? 私は……」


 どうやら女性の片方は龍一に興味があるようだ。

 とはいえ、龍一には彼女たちに対する興味は一切ないのでそれじゃあ一緒に過ごそうかとはならない。

 真もそれは分かっているのか声を掛けてすまなかったと言って龍一の傍に来た。


「良いのか?」

「あぁ。ま、暇つぶしだったからな」


 それから真と共に歩き出した。

 特にどこか用があるわけでもなく、こうして休日に悪友とも言える彼と会えば街中をブラブラするだけだ。


「少し前ならお前と一緒に女の子を食うだけだったのになぁ」

「人聞きの悪いことを……って言い返せねえな」


 昔のことはやっぱり今でも言い返せない。

 真だけでなく要も揃えば三人で良くナンパをしていたし、その都度お持ち帰りをして関係を持つことも少なくはなかったからだ。


「お前に色々と指南してもらったっけか」

「そうか? 特に覚えてねえぞ」


 龍一はそう返した。

 別に龍一が何をアドバイスしたところで真は女の扱いにすぐ慣れていたし、ルックスも優れているのでそもそも女に困ることはなさそうだった。


「お、ああいうの良いな」

「あ?」


 街中を歩いていると真が一人の少女に目を向けた。

 おそらくは高校生で龍一たちと同じ年頃にも見える少女は少し地味な見た目で、若干の幸薄そうな雰囲気を醸し出している。

 丸渕の眼鏡が似合う顔立ちは文学少女とも言うべきか、とにかく言えることは龍一たちとは住む世界が違うと言っても過言ではないほどに目立たなそうな子だった。


「ああいった子を染めるのが良いんだぜ?」

「……お前らしいわ」


 確かに地味な子を染め上げるのは一種の背徳感のようなものもある。

 静奈のような子を千沙のようなギャルに染め上げることと同義だが、やっぱり龍一にとって今の静奈が何よりも一番なのでやっぱりないなと苦笑した。

 ちょっと行ってくると言って真は件の女の子の元に歩いて行った。


「……俺を呼んだ意味は何なんだよ」


 全く持ってその通りだった。

 わざわざこのクソ暑い中に呼び出しに応じた龍一なのに、どうしてナンパするところを見せられなければならないだとため息を吐く。

 このまま黙って帰っても良さそうだが、それもそれで暇なので仕方ないから付き合うしかない。


「あ~あ、真っ赤になってやがる」


 どうやら彼女自身も自分が地味ということは実感しているのだろう。

 彼女が浮かべている表情に嫌悪はなく、どちらかと言えばどうして自分なんかにという困惑を浮かべていた。

 言葉巧みに少女を翻弄している真はやはり手馴れており、ちょっかいを掛けられている少女が少し気の毒だ。


「……?」


 しかし、すぐに真は帰って来た。

 少女は相変わらず顔を真っ赤にしながら真を見つめているのだが……どうなったのだろうと龍一は聞いた。


「どうなったんだ?」

「彼氏持ちらしいから諦めたわ」

「……ふ~ん?」


 それにしては随分と熱心に真を見つめているがとは言わなかった。

 それから適当にボウリングに行ったりカラオケに行ったり、女が居ない中での花の無い時間だったがこういうのも偶にはアリだなと龍一は思えた。

 その都度女をナンパしようとするのはどうかと思ったが、相手が彼氏持ちかどうかまず聞くあたり真もやはり弁えているようだ。


「なあ龍一、お前もナンパしてみろよ」

「なんでだよ」


 何度目になるか分からないが、もう龍一にはナンパをするつもりが一切ない。

 街中を歩いていたりして良い女だなと思うことはあっても、それ以上に素晴らしい女を知ってしまったので全く興味が沸かないのだ。


「……お」


 その時、大変見覚えのある二つの後姿を見つけた。

 二人とも仲良さそうに小物を見て会話をしており、やっぱり仲が良いんだなと思わせる。


「……え、あれって」


 どうやら真も気付いたようだ。

 二人とも夏らしい恰好をしており、片方は肌を出しながらも清楚な雰囲気は失わせず、もう片方は完全なへそ出しスタイルで抜群のスタイルを惜しげもなく披露していた。


「ナンパするならアレに決まったな」

「……絶対成功するじゃんよ」


 まあ知り合いだからなと龍一は笑った。

 気付かれないように二人に近づいたが、まるで後ろに立った龍一に気付いたように二人は一斉に後ろを振り向いた。


「おっと……」

「あら、龍一?」

「龍一君?」


 何故分かったんだと龍一は呆気に取られた。

 龍一が近づいたのは千沙と沙月の二人で、二人とも突然背後に現れた龍一に驚きながらも笑みを浮かべた。


「どうしたの?」

「もしかして……構ってほしかったんですか?」

「んな子供じゃねえぞ」


 揶揄いの意味を込めた言葉に龍一はそう返した。

 背後で成り行きを見守る真を指差してナンパしようとしたことを告白し、用は済んだのでそのまま去ろうとしたがやはり無理だった。


「待ちなさいよ龍一、こんな美女二人に声を掛けてそのままっていうの?」

「美女かどうかはともかく、せっかく会えたのに冷たいですね龍一君」


 ガシッと千沙に肩を掴まれ、控えめに手を沙月に握られた。

 こうなる予感を感じてはいたのだが、やはりそうなったかと龍一は苦笑して二人を連れたまま真の元に戻った。


「戻ったぞ」

「こんにちは真君」

「こんにちは」

「……お前」


 まあこうして女を二人連れてきたら真としても困るところだろう。

 とはいえ、千沙も沙月も今日の龍一が真と遊んでいることは理解しているのかすぐに体を離した。


「ま、今日はお互いの時間を楽しみましょ」

「そうですね。名残惜しいですが今日はこれで」


 体を離したと思ったらまた顔を近づけ、それぞれ龍一の頬にキスをした。

 千沙はやってやったぞと満足気で、沙月は少し照れを見せながらもクスッと微笑んで彼女たちは去って行った。

 ちなみに今のは街のど真ん中ということでバッチリ通行人に見られており、嫉妬もされれば羨ましそうに見られもしていた。


「……やっぱお前はすげえよ龍一」

「どういうことなんだよ」


 頬に残る香りと感触は心地が良かった。

 それから龍一は再び真と共に街中を巡りながら時間を潰すのだった。


 そして、夏と言えば海の季節だ。

 静奈と二人で近場ではあるが海へと行く日がやってきた。

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