第5話:友達を作ろう計画、結果。




「遅いぞ、赤き果実よ! 我を待たせるとは何事だ!」


 翌日、王城のサロンへ時間通りに向かうと、ドアを開けて直ぐの場所でセオドリック殿下が仁王立ちで待ち構えていらっしゃいました。

 ドアを開けた侍女が「ヒィッ」と言ったのは聞かなかった事にしてあげましょう。


「はいはい、今日も参りましたよ。時間はぴったりですわ。……ちょっとどいて下さいませ、サロンに入れませんわ」

「む、すまない」


 サロンの中に入りソファに座ると、殿下も意気揚々と向かい側に座られました。

 一年前の警戒心マックスな頃が少し懐かしいです。


「昨日、赤き果実が帰った後、我は行動したのだ!」

「おぉっ!」


 珍しく殿下が自信満々に話し出されました。

 これはもしかしたら、もしかするのではないでしょうか⁉


「我が国のベラトール達の集いし闘技の場へ赴いた。そこで我が下僕しもべを探そうとしたのだか、ベラトール達と闘っている兄上を見つけたのでな、激励の呪文を唱えたのだ。なのにだ! 何故か兄上の怒りに触れてしまった!」


 ……あー。

 騎士団の訓練場に顔を出して、友達探しをしようとしたけど、騎士達と訓練していた三歳年上の王太子殿下に気付いて、応援したら『煩い』と怒られたのですね。


「それでな、部屋に戻ろうとしていたらな、ルプスの巣窟である中庭に迷い込んでしまったのだ!」

「あらまぁ……」


 殿下、自分の家で迷子ですか。相変わらずポンコツですわね。


「なんと、そこにはな、ケルベロスの幼体がいたのだ! そしてその幼体を我が下僕にする事に成功したのだ!」


 殿下が、ドヤァ! と見事なドヤ顔をされているのが妙にイラッとします。

 ケルベロスと仰っていますが、それは先月産まれたドーベルマンの仔犬の事なのでしょう。それを友達……いえ、下僕と。

 そもそもドーベルマンは国王陛下のペットで、その子が最近産んだ仔犬のはずですが。勝手に下僕にして大丈夫なのでしょうか。


「陛下には許可を取られたのですか?」

「……母上に許可は頂いた」


 ――――逃げたな、チキンめ。


 殿下は年上の男性が大の苦手です。

 そもそも厨二病言動を続ける殿下自身のせいで、大人に怒られすぎて、と言うショッボイ理由ですが。

 ついでに言うと、女性に至っては全年齢の方を苦手とされています。

 そちらも厨二病のせいでキモ……ゲフンゲフン、忌避されてしまうのと、緊張しすぎて顔が真っ赤になるせいですが。


「……王妃殿下に、ですか」

「うむ!」


 まぁ、王妃殿下が許可されたのなら大丈夫でしょう。


「だがまだ乳飲み子だからな、再来月に我が下僕として、我が安息の地の護衛にあたらせることになったのだ」

 

 離乳してから部屋飼いされるのですか。

 ちょっと楽しみですね。

 そして、今日も人間の友達はゼロ。ボッチ殿下なのですね……。



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