第4話:殿下、懐きました。




 殿下のになってから一年が経ちました。

 今日も今日とて殿下とお茶会です。


「ごきげんよう、セオドリック殿下」

「今日も来たか、赤き果実よ」


 最近の殿下は、私の髪色と苗字であるアップルビーを揶揄って、『赤き果実』と呼ぶことにハマっていらっしゃいます。


「早く座れ」

「はいはい」

「不遜なやつめ! 我が赦していなければ万死に値するぞ。そのような態度は我が前以外では絶対にするなよ!」

「はいはい」


 最近のセオドリック殿下は私にとても懐いています。

 転機は私が殿下のとしてお茶会に同席した時でした。

 私が殿下の発言を通訳する事によって、他の方達と意思疎通が取れるようになったので、殿下は私の有用性に気付いたようです。

 ここ最近では、私の後押しもあり、この十三年間いなかった友達作りに邁進されています。

 それを知った時の王妃殿下の咽び泣きは、ちょっとやそっとでは忘れられそうにありません。


「それで、昨日の成果はどうでした?」

「宰相の末息子に我が下僕しもべにしてやると言った!」

「……で?」

「泣き叫ばれた」

「……」


 ――――またか、またなのか。


 殿下は十三歳の子供にしては百七十センチと身長が高く、全身黒ずくめの軍服(趣味)を着て、右手にガントレット(趣味)を嵌めていらっしゃいます。……未だに。

 それが、ドン近で仁王立ちして、左手は腰に、右手は顔半分を隠すようにして、『弱き立場の子羊よ、我に命を捧げよ! 我が下僕となれば、相応の叡智を授けてやらん事もない!』と叫ぶのです。

 私よりも年下の少年なら間違いなく泣く!

 例え意訳が『僕と友達になってくれないかい? 友達になってくれたら文官になる手助けが出来ると思うんだ』という下心を擽る甘言マックスな内容だろうと、伝わらなければ意味が無いのです。


「何で普通に『友達になって』と言えないのですか」

「言っているであろうが」

「どこがですか、馬鹿ですか。宰相閣下の末のご子息様はまだ六歳でしょう⁉ トラウマ案件ですよ」

「馬鹿と言うな!」


 馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのでしょう。

 この友達を作ろう計画ですが、同年代は全滅しました。年下も七歳までは全滅です。最近は六歳の子に手を出しています。

 第二王子という立場を以てしても、この厨二病言動のおかげで誰もが近寄ろうとしてくれないのです。


「もう諦めて年上の友達探しにしましょうよ」

「だっだだだだがっ……お前は我の下僕になったではないか!」

「下僕ではありませんけどね。我が家は家族全員が王妃殿下に陥落されてしまいましたので。仕方なくです」

「ぐっ……くそぅ…………我はペルソナ・ノン・グラータ。闇の中、孤独に苛まれながら消えゆくデスティーノを背負っているのだな」


(意訳:僕は必要とされない人間なんだ。きっと死ぬまで友達が出来ないんだ)


 そもそも、セオドリック殿下の見た目と言動から考えるに、年下の友達探しは間違っているのです。

 何度も年上をと勧めるのですが、年上は怖いとチキンな事を言われるのです。

 それに私という成功事例がある、と。


「殿下、何度も申しましたが、私は例外です。私はただの通訳者です。今度は必ず年上の方に、普通に、声をお掛け下さいね?」

「ぅぐぅぅ……赤き果実がそこまで言うのならば……いくらこの身がルプスの呪いに侵されようとも耐えてみせよう」


(意訳:ミラベル嬢がそう言うのなら頑張るよ)


 はいはい、頑張って下さいね、と適当に返事をしてこの日は家に帰りました。



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