気付いてしまった真実

 帰りの車中で笹木は加賀の事を詳しく教えてくれた。あの後すぐに追いついて捕まえたが、喚きながら暴れてぎゃあぎゃあと自分は悪くない事をまくし立ててきた。放せ、アイツが来る、大声でわめきながら。


「自分は悪くないの一点張りだ。息子をかばう言葉はなかったし、本当に自分の事しか考えてないって感じだった。神社で聞いたのとはレベルが違う胸糞悪い罵詈雑言の嵐だったから無視した」


 その言葉を聞いてもなお殺意を止めて見せたのだ、笹木は。普通はカッとなって簡単に一歩を踏み越えてしまうだろう。この人はその一歩を踏み留める人なんだな、と。自分では到底及ばない人だった。


「結局俺がボヤっとしてるうちに逃げられたけどな。まあいいさ、どうせ遠くへ逃げるなんてしない。証拠隠滅するだろうから」

「証拠?」

「神社に祀られてた腕のDNAを調べれば一発だ、探せば親族がわかるだろう。一致するDNAの型が必ずある。腕の回収はしたようだから、残りの部位を処分しようとするはずだ」

「回収したって、腕なくなってたの?」

「ああ。車取りに戻る時見たがなくなってた」


 その言葉に、琴音は言いようのない不安がこみ上げる。確かにおかしなことではない、そんなものが見つかれば大変なことになる。だが、なんだ? 何かがおかしい。殺人犯がいたと現実的な調査をしていた笹木からすれば証拠隠滅の為になくなった、という考えになるのは当然だ。しかしずっとオニワさんがいると信じて実際オニワさんと対峙した琴音には、「祀られたはずの腕がない」という不気味さが際立っている。


「待って、車止めて」


 琴音の言葉に笹木は車を路肩に寄せて停止した。夜になった田舎道を通る車など他にないので路上駐車を気にする必要がないのはありがたい。一人ではなく笹木の冷静な判断と知恵が必要だ。琴音の真剣な表情に何かを感じ取ったらしい笹木もじっと琴音の言葉を待つ。


「腕は誰が回収したと思う」

「加賀だろ、どう考えても」

「そうだよね。私達が分かれて行動して、また会うまで三十分もなかったはず。加賀にすぐに追いついたなら、腕が祀られてたすぐ近くでしょ。私たち確かにちょっとあの場を離れたけど敷地内にいたし、こっそり戻って腕回収して証拠隠滅できると思う? 加賀って結構興奮してたんでしょ」

「ああ、ヒステリーみたいな感じで感情が限界まで来てた。そう考えると確かに難しいか? あの状態だと証拠隠滅より、とにかく抜鬼から逃げることしか考えられない。どこか知り合いの家に逃げ込んで今も隠れてるって思うべきか。村の外に逃げるっていう選択をしないのはできない理由がありそうだからな」

「じゃあ息子や協力者が捨てた?」


 琴音の言葉に笹木は少し考え込み、手が何かを数えるような、整理整頓するような動きをする。今頭の中でいろいろシミュレーションしているようだ。


「そもそも加賀親子はどこからどこまで共有してるかがわかってないが。加賀のあの言い分だと息子が好き勝手にやったってことと、事件の調査を有耶無耶にしたのは事実だ。となると、もしかしたら死体遺棄や証拠隠滅は関わってないのかもしれない。親父が知ったのは事件が起きてから、それも調べ始めて自分の息子じゃないかと疑いが出てからか。仲間はいないだろう、ここまで来て罪をかぶるような真似する奴がいるとは思えない……じゃあ、腕がなかった理由は……まさか」


 笹木が驚愕の表情を浮かべる。その様子に琴音の鼓動は早くなる。最悪の可能性が頭に浮かんだ。


「祀られていると言ってきたが封印されてるんだったな。扉を開けたり箱を開けたりした時点でその効力がなくなるってパターンもあり得る」

「あそこは絶対開けちゃいけない場所だったってこと? でも、開けないと確認できなかった」

「シュレディンガーの猫みたいだな。確認するにはあそこを開けずに確認しなきゃいけなかったんだ。それでどうなる? 望月日和はオニワさんになってなかった、祀られてたって言っても腕があっただけだ。腕がなくなる理由は? 持って行くやつなんて本人以外いるか。だがあの短い時間で望月日和がオニワさんに変化したなんてあり得るか? 正しい手順を踏んでいないはずだ、何故変化した」


 笹木の言葉に琴音はふと思い出した。思い出してしまった事実に手が震え始める。

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