第77話出版大賞




秋になって、第2回出版大賞の発表の日が来た。

前回は、海外にいたせいで出席せずに済んだ。

今年は、まわりの人たちに出て下さいと必死に頼まれて、イヤイヤ来ていた。

静香が審査委員長だから仕方ないのかも知れない。

審査委員の中には、山田のおっさんも居た。


そんな暇が何処にあるのかと言いたい。紀伊の領地経営を任せているのに・・・

その点、筆頭家老の武藤一郎は、奥方が審査委員に入っている。

伊勢代表として、読書家として辛口のコメントを雑誌のコラムに連載している。

それで選ばれたみたいだ。


その雑誌も始めは10枚程の薄い雑誌だった。

それが広告だしたり、商品の紹介のページが作られた。

枚数は増えて、値段は安いままだ。

もうこの雑誌も売れまくった。

その売れた数だけ商品も売れまくった。




なぜか、出版大賞が出来てしまった。

長島と伊勢と紀伊に出版元が多かった。

少し誤解を招いたか、俺が自費で出版社を作った。

最初は静香にねだられて・・・渋々作った。

そうなると、俺の関係する土地の代表がやって来て「私たちの土地でも、出版社を作って下さい」とお願いされて、じゃんじゃん作った。


そうなると、この地域が情報の発信元になるのも仕方ない事だ。

そうなると書き手は自然と集まる。

そんな書き手が住む町は、本町と呼ばれるようになった。


そして出版屋は、長島に『ながしま屋』、伊勢には『伊勢屋』『おかげ屋』の2社、紀伊には『紀伊屋』『しらはま屋』が点在している。


推理や恋愛物と日常の感動を扱った文学物などが、書き手によって書かれていた。

書いた物を出版元へ持ち込むのが常だった。

そして色々なジャンルの本が発売されるようになった。


料理本・旅の本・科学本・医学本・ハウツー本など様々だ。


そして船によって日本中に売り出される結果となった。

まさに本がバカ売れ状態だった。


その本を貸す、貸本屋が各地に建つのも早かった。

その各地のお百姓も、本郷家の領地のように運営がなされるようになって余裕が出来た。

そうなると娯楽の一環として、貸本屋で本を読みたいと欲望が沸きあがった。

あまり字を読まなかった人たちが勉強して、本を読むようになるとお気に入りの本を買うようにもなった。


まさに出版ブームの到来だ。




そうなると、各地で売り上げランキング上位の書き手は注目されるようになった。

そんなこんなで出版大賞を決めるべきと、出版元が言い出した。

出版元5社が一押しの作品をノミネートして、審査によって決められる。


「さて、誰が審査委員長になるるべきか・・・出版元の我らから出せば茶番だと言われるのは確かだ」


「それなら、出版するよう進めた静香さまが適任者ではないか?」


「おお、そうだった。大事な人を忘れていた」


その審査委員長に静香がなったのも活かし方ない。


そして第1回出版大賞の推理部門で、俺の盗作品『そして誰もいなくなった』が決ってしまった。

俺の居ない間に、勝手に決めやがった。

そして、又もバカ売れしてしまった。


味を占めた出版元は、第1回目以降、毎年発表する流れとなった。




俺は発表台で、今年度の推理出版大賞を読みあげる羽目になった。

断っても、静香が何度も頼み込んだので根負けしてしまった。


ノミネートされた書き手は、広間の会場で座って期待を膨らませている。

中には不安そうに周りを、きょろきょろと見てしまう者もいる。


「発表します。今年度の推理出版大賞は、『誰が誰を殺した』です」


どうにか、早口だったが発表できた。

発表された書き手は、すくっと立ち上がって会場にいる人たちにお辞儀しながら、1段高い台に上がった。


そこには、堂々と静香審査委員長が表彰状を手渡していた。


「あなたは、たぐいまれな才能を発揮して、巧妙こうみょうな仕掛けの作品を書き上げました。ここに賞金の100両を与えます。××年10月1日、香川みちよ」


会場から拍手がわき上がった。


次には恋愛部門が発表されている。

その次には文学、そして科学部門が発表された。

最後には医学部門が発表された。



科学部門と医学部門は、俺が発案した部門で今年からの大賞だった。

広く科学や医学を広めてゆくのが目的だ。


日本の麻酔手術は、世界初だった。しかし学びに来る弟子以外、広まらなかった。

そんなもったいない事を繰り返したくない思いで決めた。

この科学部門と医学部門は、科学・医学分野の研究成果を本にして発表されたもので、科学者や医者が集まって話し合って決められた。

権威ある発表となっていた。


この大賞に選ばれると、研究費が10年間も支給されることになっていた。


今でも、これはと思う研究には、金を出している。



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